Memento ー ５

想い人 … １９９ ページ7

相澤総合病院からの帰り道…

迎えの車を呼ぶから待ってろ…と言われたけどそこまでして貰うのも悪くて、教えてもらったバスでドクタートモの家に帰ることにした、

バスに乗るのは初めてだ…

学校へは歩いていっていたし、そんなに出掛けるのも好きじゃなくて…、後は結永が自転車で迎えに来てくれたり、送ってくれたり…、風に乗る結永の香りが、心地よくオレを包んでくれる事が嬉しかった

「あれ？、この道…って…」

窓の外に見慣れた街並みに、オレは思わず停車ボタンを押し、次の停留所で降りた

気づかなかったな、バス…家の近くを通るんだ…

お父さんが退院するまでだから…と自分に言い聞かせてはいるけど、やっぱり本来の自分の帰る場所が恋しくて、オレは自宅に足を進めた

街灯の明かりが暗くなった道を照らしてくれる

歩みを進めるうちに、オレは家の前に誰かがいることに気付いた

その人の傍には一台の自転車がある
それを見た途端、オレは知らず走り出した

「結永っっ！！」
声に反応した人影が、コッチに顔を向けると直ぐに走ってきた

「奏っ！」
距離は零になり、そのまま広い胸に包み込まれた、欲しかった香りがすぐ傍にある、高鳴る胸の音が聞こえるんじゃないかと本気で恥ずかしくなった

「…なんで、ココにいるの？」
「会いたくて…謝りたくて…」

結永はオレを腕のなかに収めたまま、そう言った

「謝る？」
「昨日、イヤな態度取ってゴメン…」

後ろ頭に手を添え、柔らかく撫でながら結永がそう言った

「今一番辛いの、奏なのに…僕、酷いコト言った、奏を連れていったドクタートモって人に、…嫉妬したんだ、挙げ句八つ当たりするようなマネして、ホントに悪かった」

「結永…？」
オレを胸元から少しだけ解放し、結永は頭を下げた

「お前でもそんな感情持つんだな、驚いた、いつもお前は完璧だから…」
「そんなワケないよ！…僕、奏を取られたみたいに思っちゃって…、駄々っ子みたいでホントに恥ずかしいよ…」

俯き目を逸らし気味にポツポツと話す結永が、堪らなく可愛く思えて、オレはちょっとだけ背伸びして情けない顔してる結永の高ーい鼻先にキスをした

途端に弾かれたように結永が目を丸くする、声無くしたみたいにオレを見た

あ、こういう顔なんて言うんだっけ
《鳩が豆鉄砲喰らった》だっけな

「え、奏…、？」
「なんだよ」
「…なんでキスしてくれるの？」

返事なんて、一つしかないんだけど…


「ソレ愚問だろ？」

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