Memento ー ５

想い人 … ２３９ ページ48

「奏、今日は体調どう？」
「…うん、だいぶマシになった、さっき夕食のスープ半分飲めたし、吐いてもないよ」
「そか！良かった、少しずつでも食べられると体力もついてくるからね、あ、でも無理の無い範囲で構わないから」
「なんか、久しぶりに美味しいなって思った」

微笑みに加え、その声には以前は無かった張りが感じられた。

なんだか今日は奏の頬に少し血色が乗っている様に見える、気付けば嬉しい事に、昨日まであった点滴スタンドが無くなっていた

歩幅は小さくても、確実に奏の体に良い変化が出ていることが嬉しくて堪らない


学校帰りに相澤総合病院に奏のお見舞いに行くのが、今の僕の日課になっていた。





仲直りした次の日、僕のケータイに知らない番号から着歴があった。イヤな予感がして掛け直すと、「山下だ」と名乗られ、そして「奏が入院した」とだけ聞かされた、慌てて病院に向かい、山下さんに取り次いで貰うと、「着いてこい」と言われ奏の病室に連れて行って貰った。

「奏の容態はどうなんですか！？入院って、そんなに悪いんですか！！？」
「良くは無い、だがお前が会いに来てくれた事で、少し心が軽くなったようだ、自分から入院すると言ってくれた、正直…ホッとしたよ」

そう言うと、山下さんは初めて僕に向けて表情を和らげた。

「そうなんですか…？」
「何度か入院を勧めても、奏は頑として首を縦に降らなかった、自宅治療にはやはり限界がある、無理矢理入院させても余計拗らせる事もあるしな、…自分から言い出してくれて助かった、後は奏から聞けばいい」

病室に入ると奏は起きていて、僕を見ると微笑んでくれた。予想していた程悪くは無いらしいことが分かって、僕は胸を撫で下ろした

「入院したって聞いて驚いたよ、自分からしたいって言ったんだって？」
「うん…」
「山下さん、ホッとしたって言ってたよ、自宅だと治療も難しいからって、…奏のお父さんもいてくれるし良かったね」
「それも、あるけど…」

の後、奏はちょっと気まずそうな表情を浮かべた

「ん？」
「自宅にいた方が…オマエ、来てくれやすいかなって…病院だと、色々面倒臭いし…」
「え？…それって…」
ボソボソと話す奏、でもまた口籠もってしまう、言葉の奥にある奏の想いに、僕は浮き足立つ思いがした

「奏、僕に会いたいって思ってくれてたの？」
「………」
そっと伸ばされる手…
薄くなった手のひらが、僕の手に触れる



「会いた過ぎて、死ぬかと思った…」

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