Memento ー ５

想い人 … ２３３ ページ42

「奏は今、どんな様子なんですか？」

促したソファから身を乗り出すように結永が聞いてくる。
赤ん坊の時に一度会っただけだが、透明度の高い黒い瞳が、宏光にとてもよく似ていた。

年月を経た今も尚、宏光の面影を探してしまう己の不甲斐なさが、恥ずかしくも物悲しく思えた

「食事が満足に取れない為に、体力がかなり落ちている、午後は眠ってる事が多い、自然に目が覚めるまではそのままにしてやりたい」

ありのままを伝えると、結永の表情に苦悶の色が浮かんだ

「それは薬の…副作用ですよね？」
「ああ、そうだ」

この言葉から、結永が奏の現状を全て聞いたんだろうと見当がついた。

「食べても直ぐに吐き戻してしまうからな、点滴で栄養剤を入れてる、だがそれももう限界が見えてきた」

今の奏は、ベッドから起き上がるのも辛そうなレベルだ。ドクターストップは必至だった

「奏の第二次成長が進んでいると、母から聞きました、それを止める為に抑制剤の量を増やしたと…」
「そうだ」

結永は、強い光を含んだ瞳をオレに向けた

「なぜそんな事を許可したんですか！？僕は奏に、第二次成長を迎えても構わないって言ったのに、どんな奏でも奏は奏だから…って」

結永なら、そう言うだろう。
この子は宏光の子であり、藤ヶ谷太輔の子でもある。

誠実に、そしてひたむきに宏光への愛を持ち続けた藤ヶ谷に、オレは敗北した。例えオレと宏光が異母兄弟だという事実が無かったとしても、オレは藤ヶ谷には勝てなかっただろう。

愛する人を守りたい気持ちは、親譲り、か…

だが今の奏にとって、結永の優しさは救いでもあり、同時に縛りにもなりえるのかもしれない


「全て奏の意思だ、それはお前でも覆せない」

事実を述べると、結永が眉根を寄せた

「……僕のせい、ですか？」
「どういう意味だ？」


「僕に第二次成長が進んでることを言わなかったのは、それを言えば僕の負担になるからって、…薬を増やしてまで今を続けるなんて無茶だ…っ全部、僕が…っ」

頭を抱えるように俯き、喉から絞り出す声は震えていた。

「誰のせいでもない、服用は奏が自分で決めた事だ、オレは医師として奏の決断を了解した、お前の考えは関係ない」

慰めるつもりもない。

こんな事で動揺するよう男なら、この先奏は守れない。


「お願いします、奏に会わせて下さい、話をさせて欲しいんです」
「服用を止めるようにか？」
「そうです」

「やってみればいい、お前にできるなら…、な」

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