Memento ー ５

想い人 … １９７ ページ5

「奏…まだいたのか？もう帰ったのかと思ったよ」

お父さん、寝てるかな…と思ってノックをせずにそっとドアを開けると、背もたれを起こした状態でオレに顔を向けた

「お父さん！？起きてて大丈夫なの？」
驚いて聞くと、いつもの静かな笑顔を見せる

「点滴も終わったからね、気分は上々だよ、お前こそ疲れてないのか？何処にいたんだ？」

「…さっきドクタートモがオレの血液検査がしたいって…今採血してきた」
「そうか、…抑制剤は服用はしてるんだろう？」
「うん、それは大丈夫…」

でも、イヤイヤ飲んでいた頃とは違って、今は前ほどの酷い副作用は無い、気持ちの問題なんだろうな

「…すまないな、奏には小さい頃から辛い思いばかりさせている、日本を離れたのも、私の研究に付き合わせたようなものだ、悪かったね…」

ベッドの脇の椅子に座ったオレの頭をゆっくりと撫でてくれる、小さい頃から、お父さんにこうして貰うと安心できた、居場所はココなんだって思えた…

「家族なんだもん、一緒にいるのは当たり前だよ…」

そう答えると、お父さんは目を開きとても驚いた顔をした、そして…込み上げる想いを握ったシーツのシワが表していた

「そうだな…私とお前は、家族だ…」
掠れる声に、お父さんの深いの想いが込められている気がした

「だから、早く良くなってウチに戻ろ、やっぱりオレ…自分の家が、一番いい」

「そうだな、ウチには奏のピアノもあるしね」
「うん、あんまり放っておくと拗ねて音が悪くなるんだよ」
「そうか、ご機嫌を損ねたら大変なんだな」
「そうそう、だからお父さんちゃんと休んでよね！ドクタートモが《律はちょっと目を離すと、小児病棟に戻って行きそうで心配だ》って言ってたよ」
「なんだ読まれてるのか、悔しいな」
「ほらもぉ！ソレがダメなんだってー！！」

そして二人で声を出して笑い合った、良かった、、お父さん元気そうだ…

ホッとしたオレに、「奏…」と呼ばれた

「なに？」
「声を出して笑えるようになったんだね」
「え？」

「もう随分、お前が楽しそうに声を出して笑うのを見てなかった気がするよ、…結永くんのお陰だね」

穏やかな声で、そう話してくれる

「お父さん…？」

「彼がお前との事を許して欲しいと頼みに来た時に言っていた…《奏の笑顔の理由が、自分であって欲しい》って…、彼は本当にそうしてくれた…、結永くんといれば、奏はいつも笑って過ごせる、…奏、その人に出会えたんだね、本当に良かった…」

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