Memento ー ５

想い人 … ２３１ ページ40

ここまで聞いてもまだグズグズと煮え切らない結永に、オレは怒りMAXだった。


結永が生まれてから、オレと太輔は《その場の勢いや感情で子どもを叱るのは絶対止めよう》と話し合って来た、

結永だっていつもいつも聞き分けのいい子だったワケじゃない。ヘソを曲げたり我の強さが目立つ時期もあった。けどそれは《成長の過程》で済ませられる事が殆どで、太輔もオレも感情を制しながら結永と向き合ってきた。


でも今だけは、どうしても無理だ。

初めてオレは感情のまま結永に手を上げた。
イキナリ張り飛ばされた事で、結永が呆然とした顔でオレを見た。一体何が起こったのかと訝る様に…

奏くんの受けてる苦しみは、こんな張り手一発の痛みどころじゃない！
オレはそのまま結永の胸ぐらを引っ掴み、力任せに引き寄せた

「奏くんが何の為に副作用の強い薬を飲んでると思ってんだ！！全部オマエの為だろうがっ！！」

「……」
「この先もずっとオマエと一緒にいたいから…ッ、オマエの事が好きだから必死でキツい副作用と戦ってるんだよ！！なんでソレがわかんねぇんだよっ！！」

ガクガクと揺さぶる様に怒鳴りつけると、結永がオレの手を掴んだ。

「第二次成長が進んでるなんて、奏…一言も…」

何言ってやがる、バカ息子！！

「当たり前だろっ！！言うわけねぇよ！！そんなこと口にしたらオマエがどれだけ心配するか、どれだけオマエに負担を掛けるか、奏くんはソレしたくないから全部一人で背負うこと決めたんだろっ！！」

ハッと結永の目が見開かれる

言葉にしながら、オレの胸には太輔がいた。

家族になってから、オレに弱い部分を見せなくなった太輔。恐らく、自分が弱音を吐くことでオレが気に病み、それによって結永への何かしらの影響を危惧していたんだと思う…

そんな太輔にオレがしてやれるのは、同じだけの愛を返す事しかないから…

「全身でオマエを好きだと言ってくれてる奏くんに、オマエは何も返さないつもりなのか！？」

「かーさん…」
「かーさんじゃねえっ！！オマエが今呼ぶ名前はただ一人だろ！行けよ早く！奏くんに会いに！！」

胸倉から手を離し結永の腕を掴むと、強引に玄関に突き出した。

「好きな人に後悔させる様な生き方すんなっ！！」

怒鳴りつけたオレに、結永の目が真っ直ぐに向けられる。
それは、このところ全く見ることのなかった強い光の入った瞳だった。




「行ってくる」

「おう！仲直りするまでウチの敷居は跨がせねぇからな！」

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