Memento ー ５

想い人 … ２２４ ページ32

相変わらず自主練とやらで帰宅が遅い結永、夕食時は笑顔も会話を弾ませるコトも無く、食べ終わると「課題あるから…」て直ぐ部屋に戻ってしまう

太輔も結永の変化を受け止めつつ「なんて言うか、静かな食卓だなぁ」とボヤキながら結永が出ていったドアを見ていた

「そだな…」
「聞いても言わないだろうしな」
「ん…」


まぁ理由は明白で…、
けどいくら親とはいえ、思春期の息子の恋路に口を挟むことが、果たしていいのかどうか、オレも太輔も考えあぐねていた

自分達も通って来た道だけど、決定的に違うのはオレにも太輔にも、あの頃頼れる親はいなかったという事…
何もかも自分で決めなくてはならない、出した答えが合ってるのか間違っているのかも分からず、誰かに助言を求めることすら許されなかった

抗えない生き苦しさの中、必死でもがき、それでも結局流されるしか無かった

あの頃…何か一つでも支えになるものがあれば、その場に踏みとどまれたのかもしれないと思うのだ



「あのさ結永、奏くんさ、また飯食いに来たらいいのにな」
風呂から出てきた結永に鉢合わせし、さり気なーく提案＆誘いの言葉を掛けると、頭拭きながらの微妙な間の後「…来ないんじゃないかな」とサラッと流された

「あー…そう……なんで？」
「体調悪いみたいだし、ずっと学校来てないよ」
「え、《みたい》って…お前奏くんの様子見に行ってないのか？」
「いいよ、奏には僕なんかよりずっと頼れる人が傍にいるんだから、別に心配なコトもないよ、…もう寝る、おやすみ」

表情を隠すように頭からタオル被ったまま、上に上がろうとする結永の手を思わず掴んだ

「ちょっと待てって」
「も、ナニかーさん？離してよ」
「お前、それでいいのか？」
「何が？」

「奏くん…ヒビをそのままにしとくとどんどん広がってくぞ、どこかで修復しないと…」
言いかけたオレは、結永が浮かべた表情にその先を制された

「いいんだよ、修復したってまた割れてくる、…奏もそれは望んでない」
「…」
「ゴメン、ホントにもういいから」
「結永…」

かつてこれ程、我が子の背中に距離を感じたことがあっただろうか、もどかしさとやるせなさを抱えリビングに戻ると、太輔がコーヒーの入ったマグカップを差し出した

「前途多難…って顔だな」
その声音と香りに、心が解けていく

「過保護かな、オレ…」
「ひろはそう思うの？」
「そうだとしても…オレ、このまま二人を終わらせたくない」

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