Memento ー ５

想い人 … ２１７ ページ25

声の方に顔を向けると、部活ジャージ姿の桜也がボールを持ってコートの端に立っている、様子を伺うような表情に、僕は首を傾げた

部活は大分前に終わったのに…

「どした？こんな時間まで…」
「はい、…えと、来生センパイから結永さんが残って自主練してるの聞いて…僕もバスケ部員だし、球技大会でONEゴールくらい決めてみたいなって、あの、もしお邪魔じゃなければトレーニング…お願いしたくて…」

ボールを抱えてペコりと頭を下げる桜也、僕の自主練が一区切りするタイミングを待っていたんだろうなと言うのが、言葉の端で伝わる

小柄な体が一層小さく見え、おずおずとした様子にふと笑みが零れた

断る理由は、無いよな…

「いいよ」
「ホントですか？！ありがとうございます！！」
不安げな表情を一変させ、目を輝かせた桜也がコートの中に入って来た

「部員の世話ばっかで練習入れないもんな、いつも助かってるよ、ありがとう」
「そんな…！僕は元々マネージャーなので練習入っても足手まといです、でも今回の球技大会バスケだから、少しくらいは頑張りたくて…」
「うん、桜也なりの頑張りでいいから、僕でいいならゴール決められるように協力するよ」
「はいっ！！ありがとうございます！！」

ホント…耳と尻尾でも付いていたら、ちぎれるほど振ってんのかな、て思うくらい嬉しそうに笑う、クルクルと変わる表情に、久しく感じなかった和みを覚えた

ｸｽ…

「え、僕なんか変なこと言いましたか？」
漏れた笑いに桜也が反応し、また困リ顔を作った

「あ、いや…、桜也は中等部の時と余り変化が無いなと思って」
「もぉ結永さんヒドいですぅ、僕だってちゃんと成長してるんですよ！」
幼子がむくれる様な顔に、また笑ってしまう

「ごめんごめん、じゃやろうか、…シュートを決めたいんだよな、桜也ならレイアップが向いてると思う」

ダンクやレイバックは、この体つきだとハードルが高い

「はい！ドリブルで抜いて行くの、カッコイイです！僕もやってみたいです！」
「うん、じゃちょっとやってみようか、僕を抜いてみて」
「はいっ！！」

前に立ちボールをバウンドする桜也の様子を見るけど、やはり覚束なさは否めない、道のりは長そうだけど、こんなにやる気を見せてる後輩なら一本決めさせてやりたかった

「桜也、そのままゴールまで走って」
「はいっ！！…あ、あれ？」
モノの数メートルでボールは手から離れコート外に転がっていく

「もう一回やってみよ！」

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