Memento ー ５

想い人 … ２１０ ページ18

「…僕は、いいです」

そのまま木村先生にプリントを返した、貰ったとしても出せる答えは1つだ、

約束、したから…

「後悔しないのか？」
「はい」
「そうか、分かった…、まぁ締め切りまではまだある、よく考えろ」

片方の口角を上げ、ポン…とオレの肘を叩くと「ご苦労さん」と回転イスを回し背を向けた

「…失礼します」

軽くお辞儀をして職員室を出た
腕時計を見ると、午後の始まりまで数分しかない

「わ、遅れる、ヤバっ！」




「…遅かったな、結永」


学食で一緒にご飯食べて、結永は急ぎ足で取りまとめた進路調査のプリントを持って行った

彩り良く愛情を詰められた弁当を完食し、「ご馳走様でした」と手を合わせ出て行く結永、渡したプリントには進学先には《付属大》をチェックした

「僕も同じにした」と言われ、内心ホッとした、でも同時に湧くのは結永の本心はどうなんだろ…という疑問

けど「放課後に…」と言ってくれたから、それを待てばいいんだ、とそれ以上何も言わなかった

結永が戻ってきたのは、午後の授業開始2分前、プリント渡すだけで結構な時間が掛かっていた


「ちょっと捕まっちゃって…」苦笑いしながら席に着くと、丁度始業のチャイムが鳴り、先生が入ってきた

隣りにいるのはいつもの結永

真剣な眼差しで教師の説明に耳を傾けノートを取っていく、少し濃いめの読みやすいキレイな文字、どんなことにも手を抜かない生真面目な結永の性格が現れてる、

背筋を伸ばした姿も、教科書をめくる指も、真っ直ぐで長くてしなやかだ、

‪《α‬‪α‬‪α‬》…トリプル‪α‬…

佇まいからして、周りとは違う
改めてオレは結永を見つめ返した

視線を感じたのか、結永の視線がオレに向いた、慌てて前を向くとバッチリ先生と目が合う


「久遠、次の問題、板書！」
「えっ！？あ…はい…」
って、ドコ？どの問題？
目が彷徨いて探せない、

「問4…定理は…」隣からボソッと結永の声がする、あ…そか


耳に入る声に、上がった心拍数が急降下していく、ホッと息を吐き見慣れた問題を頭の中で組み立てていく

前に出て定理を元に解いていくと、腕組みした先生も頷いていた

席に戻ると結永がニコッと笑ってグッジョブのサインを送ってくる、バツが悪くてそのまま腰を下ろし、ノートに目を落とした


そこから時々結永の心配そうな視線を感じながら、オレは酷く居心地の悪い時間を過ごした…

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