Memento ー ５

想い人 … ２０７ ページ15

「おはよう、奏」
「…あ、おはよ、結永…」


新緑の時期も過ぎ、朝の優しい光を受けた中庭の木々は、若葉色から深緑へと変化していた

球技大会の為の朝練を終え、部室棟から教室への戻ろうとした時、少し離れた視線の先に奏の背中が映る

風に柔らかく靡く髪色は、まるでそれ自体が光を放っているかの様に美しく輝いていた


本当に、天使みたいだ…

あんな綺麗な人が、僕の恋人なんだ…、そう思うとどこか気恥しさを感じながらも、とても誇らしく思えた

この先も、奏に相応しい自分でいたい、と心から思った

「朝練終わったのか？」
「うん、でも球技大会あるからさ、今は一年の練習に付き合う感じかなぁ、来生達が《バスケ部の一年全員選抜に入らせないとオレらの名が廃る》とか何とかで、自分達の練習よか率先して指導してる」

遂に桜也までもが試合に駆り出され、泣きそうになっていた

「そか、そういやそんなイベントあったな…」
「そうだね、奏も一度は出なきゃかもだよ」

球技大会は学校行事だ、
トーナメント戦だから、第一試合だけは全員参加が義務付けられている

「…多分オレはその日は欠席だよ、」
「え、なんで？」
「ドクターストップ、…分かるだろ？」

そう言うと、歩く速度を少し早めた

「…体調、良くないの？」
「別にいつものコトだし、、いい日なんか…無い、」

いつもよりぶっきらぼうな答え方、下駄箱から上履きを取り出し、履き替えた

「奏、何かあったの？」
明らかいつもと違う様子に不安を覚え、奏の手を取った

冷たい手…緊張してるのか、少し手のひらに汗を感じた

「奏！」
「そうじゃない…、ゴメン…」
「謝って欲しいワケじゃないんだ、何かあるなら話して欲しい、一人で抱え込まないで」

「結永…」
「奏…そうやっていつも全部自分の中にしまうの、止めよ？そんなの…パンクするよ」

こうやって無理にでも聞き出さなければ、この人はきっと最後まで何もかも隠してしまう、

それだけは、して欲しくない
榛色の瞳の奥を覗くように見つめると、長い睫毛に縁取られた瞼が伏せられた、そして僕の手を外しながら
「…進路…」と続けた

「進路？」
「何も書けなくて…困ってる」
返ってきた言葉に少し戸惑いながらも、何かしら話してくれた事にホッとした

「…うん、まだ本格的なものじゃないから、今の希望を書けばいいと思うよ、付属の大学に進学するの？」

「結永は？」「え？」

「結永は、これからどうしたいんだ？」

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