Memento ー ５

想い人 …２０４ ページ12

美味しいな、ビーフシチュー…

ドクタートモからは、あれ以上のお小言は無く、二人でご飯を食べている

日本を離れていた時、小さい頃お父さんが病院から戻れない時は、ドクタートモの家に行っていた

今と同じで口数の少ない人だけど、その誠実さと優しさは、ふと見せる穏やかな表情と眼差しが伝えてくる、幼いオレには、お父さんとドクタートモだけがリアルな世界に存在する人だった

「美味いか？」
「うん、美味しい、パンも色々あるから嬉しいな」
「そうか、副作用で食事が十分取れていないかと心配していたが、大丈夫だったんだな」
「最近はわりと食べられるんだ、副作用も前ほどじゃないかも、…ねぇドクタートモ、コレってカラダが副作用に慣れたってことかな？だったら嬉しいんだけど」

「…そう、だな…」

瞬間的な沈黙と無意識を装い外される視線に、オレは不安を覚えた

ドクタートモは、必ず真正面から人を見る人だ、自分自身に絶対的なプライドを持ってる人だけが出来る仕草は、オレの憧れでもあった

そのドクタートモが、無意識であれこんな不用意な態度をするだろうか？

「ドクタートモ…」
「なんだ？」「何かオレに隠してることあるよね？」

そう聞くと、形のいい口元に運ばれるシルバーのスプーンがピタリと止まった

的中した予感に、オレは喉奥からせり上がる不安を飲み下した

「もしかしてお父さんのコト？お父さん、何か良くない病気なの？」
前も苦しそうな様子を見たけど、その後は特に変わった様子は無かった、でもホントはあの後も…

記憶を辿り、お父さんの様子を思い返そうとした時

「奏、お前、結永が好きか？」
「え？」

予想すらしてなかった問いかけに、オレは困惑しドクタートモの顔を見る事しか出来なかった

「なんでそんなコト…」
「お前の血液検査の結果が出た」
「検査…？」

そう言われて、今朝検査室で採血された事を思い出した

「…抑制剤の効果がかなり薄れてきてる、それは第二次成長が進んでいるということを示してる、このまま行けば確実にお前の体はキメラの悪影響を受けるだろう」

ドクタートモの言葉が、激しくオレを動揺させ現実を混乱させた

「なんで？だってオレ、ちゃんと抑制剤飲んでるよっ！？なのにどうしてそんなことになってるの！！？」
「キメラ種は、まだ謎に包まれた部分が多い、成長ホルモンが心的要因に左右されていることも考えられる」
「心的要因？…何だよソレっ！？」





「…結永への思慕だ」

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