Memento ー ５

想い人 … ２０３ ページ11

結永への名残惜しさを感じつつ腕時計を見ると、思ったより遅い時間になっていた、リビングには明かりが灯り、ドクタートモの方が先に帰っている事を知らせてくる

どうしよう…ドクタートモ、怒ってるかな…
渡されたカギでドアを開け、様子を伺いながら中に入ると

「…お帰り、奏…」
と、ドクタートモがリビングから出てきた、腕組み＋険しい表情にビクリ…と体が反応する

「……ただいま、…あの、遅くなってゴメンなさい…」気まずさがリンクして、語尾のトーンが落ちていく

「そうだな、遅いな…、寄り道か？」
「ゴメンなさい…」

反抗する気なんか毛頭無くて、言うべき一つの言葉だけを口にすると、ドクタートモは、「まぁいい、入れ、…一人で帰ってきたのか？」と聞いてきた


「あ、えっと…違う…」
ウ
ドクタートモにウソが通用しないのは雰囲気的に明らかだ、そう答えると「結永か？」と聞かれた、頷くだけの返事をすると、フッ…と困惑したため息の様な息遣いがする、

顔を見ると、視線を逸らすようにしながら「食事は？」と聞いてきた

「まだ…」
「なら、着替えてダイニングにおいで、母屋の家政婦が支度をしてくれてるから」
それだけ言うと、リビングに戻って行った

二階の自室に戻り、机の上に荷物を置き、プリントを手に取った


「進路…か…」

結永に渡されたプリントを見ながら、オレはホッとため息を吐いた、

示された選択肢、それはこの学園に通える生徒だからこその、輝かしい未来を想像させた

そして思う…今の自分に、未来へ輝きを放つ《何か》があるのだろうか…と…

キメラとして生まれ、無バースとして生きていく…、今のオレの毎日は、抑制剤の副作用に怯えるだけの日々だ

これからも…それでいいのか？


………イヤだ…

オレは、結永の傍にいられるオレになりたい、誰にも恥じることなく結永の為に存在していたい

「その為には、自分でちゃんと考えないとダメだ…」

透明ファイルに収め、下に降りていく、リビングに入るとトモはダイニングテーブルに座っていた、サラダボールに彩り良く盛られた野菜が鮮やかさを主張してる、カゴには何種類ものパンが用意されていた

6人掛けの大きなテーブルセット

何となく…向かい側では無く斜め前に坐ると、トモが立ち上がりキッチンに向かった、コンロに掛けてあるブルーの鍋からは薄く湯気が上がってる

「わ、いい匂いする」
「ビーフシチューだな、お前は育ち盛りだ、しっかり食べろ」
「うん！」

想い人 …２０４→←想い人 … ２０２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す