Memento

想い人 … ９ ページ10

「そんなことないよ…」

気落ちしてる宏光に、オレは確信を持ってそう伝えた

しょぼん…と俯いてた顔が上がり、間接照明の灯りで瞳に淡く光が映る

「結永が迷いなく前に進むのは、勿論成長のシルシでもあるけど、自分に安心出来る砦がある事を知ってるからだと思うよ」

「安心出来る…砦…？」
「そう、それはね…ひろ！」
「オレ？」

キョトン…と真ん丸な目がオレを捉える、こんな顔すると、出逢った頃そのままで、つい笑ってしまう

「ソコ笑うトコか？」
プクってほっぺ膨らませるから、より可愛さ増し増しで、膨らんだほっぺを人差し指でつついた

「何があっても、どんな時でも安心して戻れる場所があると、人は全力で頑張れる…、ひろは結永の《勇気の泉》なんだよ」
「勇気の泉…」

「そう！…この７年、ひろが心を尽くして結永を育てて来た証かな？ちっちゃい時は、少し進んでは後ろを振り返って、オレやひろがソコに居るかを確かめてたけど、今はもう…その必要が無いって分かったんじゃないかな、必ず後ろには最後まで自分を見守ってくれる人がいる、結永の心にそれが深く刻まれたんだと思うよ」

まだ湿り気を帯びた髪を撫でながら、オレは想いを口にした

「それは、オレもだけどね」
「太輔…」

何一つ不純物の無い瞳

この瞳が、時に挫けそうになるオレを支え、次に進むべき道を見せてくれる

「笑って《ただいま》が言える場所、その場所があれば、人は強くなれる…迷ってもちゃんと辿り着ける、オレと結永にとっては、それが《北山宏光》…」

うなじに手を添え引き寄せ、コツン…とおデコを合わせた、上目遣いのハニカミ笑顔は、今もオレの心のど真ん中を捉えて離さない

「…ありがと…なら、オレはいつでも《お帰り》って言えるように、待ってるな…」
「そうだよ、ひろが笑って迎えてくれると、オレも結永も一日幸せなんだから！、ﾌﾌ…オレも結永もそゆとこ結構単純なんだよなー」

何年経っても、この人が好きで好きで堪らない…
「キス、していい…？」
「え？」
「えっちなキス、したいな…今…」

人差し指で柔らかいその場所をなぞると、宏光の頬が薄明かりの中でも分かるほどポワッと色付いた

「…ん…」
ポソッと声が聞こえ、オレは手に持っていた二つのグラスを窓辺に置いた

そのまま少し強引に唇を重ねる、応えるように宏光がオレのクビに腕を回してくれた

「絡ませて…」
舌を割り入れると吸われる様に迎えてくれる
絡ませた吐息は、さくらんぼの香りがした

想い人 … １０→←想い人 … ８

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す