Memento

想い人 … ８ ページ9

「どうした？」

寝室の窓を開け、ボンヤリと外を眺めながら風呂上がりの火照った体を夜風で冷ましてると、鼻先に氷の入ったキレイな赤色のカクテルが差し出された

「飲んだら？」って、同じグラスを持った太輔が隣に立ち、ニコッと笑う

「ありがと…」受け取り口に含むと、甘めの味とホワッと鼻に抜けるさくらんぼの香りがした
「わ、美味し…」
「渉お手製のさくらんぼ酒だよ、2年ものなんだってさ、二階堂が貰ったんだって」
「へえ…」

「んじゃ乾杯！」

カチン……と太輔が自分のグラスをオレのに当て口を付ける、そして「うん、いい味！」と笑みを浮かべた

「…疲れた？」
出窓に浅く腰掛けて、オレを見る

「いや、大丈夫…、なんかちょっと反省した」
「何を？」
「結永…、すげぇ怒っちまったから…」
「あー…」

そう言うと、太輔がｸｽｯと笑い「でもアレはオレも悪かったからさ、…やっぱり結永一人で行かせるべきじゃなかったと思う、ひろが心配するのも無理ないよ」とオレの髪に触れながら言ってくれた

「なんかさ…最近、よく思うんだよな…」
「何を？」
「子供でいてくれる時間て、本当に短いんだなぁって…」

結永を産んでから今日で7年…、あの日、命懸けで手にしたオレと太輔のタカラモノは、かけがえの無い時間と幸せを、オレと太輔に与えてくれた

「誰かの手を借りなきゃ何にも出来なかった赤ん坊の結永が、一つずつ大きくなるにつれて、自分で出来ることがたくさん出てきて、嬉しいのに…寂しくなる時、ある…」

「ひろ…」
「今日だって、全然躊躇う様子もなく夜の屋台村に入って行ってさ…全然振り向きもしなかった、ｸｽｯ…オレさ…どっかで結永が《やっぱりかーさん着いてきて》って言ってこないかなぁ、なんて思ってたんだ」

昼間とは全然違う仄暗さや人混みを全く気にすることも無く、前に進んでいく結永、その後ろ姿を見ていると、本当についこの間まで、この両腕の中ですやすやと眠っていた時間が現実だったのか、分からなくなりそうだった

「彬人くんとの時に分かってたことなのにな…小学校に上がってからは、益々結永がオレ達…いや、…オレから離れてく気がして、つい怒っちまった、…勝手だよな…」

幼稚園ではさほど感じなかった《‪α‬‪α‬‪α‬》の性、けど小学校に入ると、その影響力を感じることが多くなった

御厨さんが、普通の学校では返って結永の成長を妨げる、と言った理由がここに来て分かる気がした


「そんなことないよ…」

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