Memento

想い人 … ２７ ページ28

「じゃ行ってきまーす」
「お、…おお、行ってこい！…あのさ結永、いい一日を過ごせよ、」
「…？うん、そうだね…」



前日に何があろうとも、朝日は登るもので…、僕は今朝もいつもの時間に起き、かーさんとニカさんの作った朝ごはんを食べ、登校の支度をする、最近のとーさんは僕より出る時間が早くて、朝ごはん食べてる時に出ていった

「結永、楽しく過ごせよ」ってせっかく整えた髪を掻き回されて、また洗面所に行かなきゃ行けなくなった、とーさんは未だに僕を子ども扱いだ、…まあかーさんもだけど…

お弁当渡されて、スクバに仕舞う、かーさんの出掛けの言葉に若干の違和感を覚えつつ、皆川さんの見送りを受けて、自転車を走らせた

ペダルがすこーしだけ重く感じるのは、僕の心がめり込んでるからかな…

昨日の今日…久遠くん、僕のコト警戒してるだろうなぁ…

鈍いボクは、久遠くんの《誘ってる？》の意味が飲み込めなくて…アレってつまりは、僕が彬人曰くの《ナンパ》を彼に仕掛けるために《覚えてない？》と言ったと思ってるんだよな

まぁそりゃそう思うかも…何も覚えてなければ彼から見れば僕とは初対面だ、なのに突然《僕の事覚えてない？》なんて、不審がられてもしょうがないよな


あーあ、今朝会ったらなんて言おう…

春の盛り…いつもなら日差しの温もりや風の香りが心を沸き立たせてくれるのに、今日に限っては、空気は鉛ほど重苦しい

最後の角を曲がり、校門までの道を進むと、並行する道路には送迎の車が連なっていた

でも、たった一人だけ、歩道に見える背中…

朝日を受け、薄茶の髪は限りなく金に近い色になり、春風にタンポポの綿毛のように柔らかく靡いていた

一目で、その人が誰か分かった

知らないフリで抜き去ることも出来たけど、誰かを嫌な気持ちにさせたまま過ごすということが、僕の性格上出来なくて、とりあえず声を掛けることに決めた


とは言え、怒ってないかな…警戒されないかな…
と先走りの考えが浮かんでくる

早鳴りの心臓を抑え、ボクは自転車の速度を緩めながら「おはよう、久遠くん」と声を掛けた

立ちどまり、振り返る彼…
木漏れ日が、彼の瞳の色を淡いブルーに見せた

やっぱり、この人天使だ…

「…ああ、藤ヶ谷…だっけ、おはよ」
特に表情を変えるわけでもなく、至ってフツーの返しに、僕の方が拍子抜けした

「うん、おはよ…」

ぎこちないぞ！と思いつつ答えると、彼は僕の押してる自転車を見て「…車じゃないんだ」と言った

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