Memento

想い人 … １６ ページ17

「さて…と、」

最後の点検を済ませ窓とカーテンを閉める、ドアに鍵を掛けると、職員室に歩いていった

廊下の窓からは、同じ制服を着た生徒が、友人達と笑顔を交わし合ういつもの風景が見えた

柔らかな光の中、それは穏やかな日常の始まりを伝えてきた、今日からまた同じ毎日を過ごすんだな…

変化が無いのも、平和でいいか…


軽くノックをしてドアを開ける、「失礼します」と声を掛け、職員室に一歩入る

その足が、縫い着けられた様に止まった…

なぜなら僕の目の前に、あの日の《天使》がいたから…
年齢なりに大人びてはいたけど、記憶の中の《その人》だった

星祭りの日と同じ…僕は吸い寄せられる様に、その人から目を離すことが出来ない

光に透けた髪は、薄茶から金へ自然なグラデーションをしている、そしてほっそりとした顔周りにフワリと柔らかく掛かっていた

職員室独特の空気の中、彼の周りだけが淡い光に包まれてるように見えた

まさかの再会が信じられなくて鼓動が跳ねる、焦る僕に、至極当たり前の展開がやって来た

「おう藤ヶ谷、カギか？ご苦労さん」
学年主任の先生に気軽な感じで声を掛けられ、その声に我に返った、

「あ、はい…コレお返しします」
「ちゃんと窓とカーテン閉めたか？」
「はい、…大丈夫です」
「そうか…、あーそうだ、藤ヶ谷、転校生だ、お前と同じクラスだから、後から教室連れていくな、えーと名前は…」

言いながら、先生がその人を見た、
多分まだ覚えてない…っぽい？その子も察したんだろう、無表情のまま「…久遠…奏、です」と
答えた、その声は、高くもなく低くもなく…言うなれば、彼らしい濁りのない声音だった

くおん…かなで……

「そうそう、《くおん》な、久遠、藤ヶ谷だ、同じクラスだよ、今年の生徒会長だし色々教えて貰うといい、頼むな藤ヶ谷」

先生達にとっては、新学期あるあるなんだろう、けど僕にはこの瞬間が奇跡だと思わずにいられなかった

「あの…藤ヶ谷結永です、よろしく…」
上擦る声に恥ずかしを覚えながら、どうにか名前を伝えると、久遠奏はチラっと僕に目を向けて、微かに頭を下げた

「よろしく…、久遠です…」
そしてやっと真面に僕を視界に入れてくれた、でも久遠奏の瞳には、何の変化も無かった

だよな、…覚えてる訳、ないか…

「藤ヶ谷、始業式に遅れるぞ」
「あ、、はい！」

微かな胸の痛みを感じながら、それが当たり前だと自分に言い聞かせ、「また後で…」と言葉を付け足した

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