君想う夢・君恋し花 …６

愛を彷徨う人 … ５８ ページ27

「父さん、なんでこんなになるまで放っておいたんだよ！」

医師から聞かされた病状は、もはや手遅れを超えているという最悪の状態だった

「ここ数日持てばいいかと…」


あれほどまで情熱を傾けていた執事という仕事も、オレの知らない間に辞めていて、それまでの蓄えで細々と暮らしていたらしい

病院に行かなかったのも、恐らくは経済的理由なんだろうと思った

「なんでオレを頼らなかったんだよ？たった一人の家族だろ…」

時折連絡を入れていたけど、「耕作、お前はお前の道を進め」とそればかりを言い続け、自分の窮状を訴えてくることは一度も無かった
そして、親父の背景を知ろうともせず自分のことのみを優先していた時間を悔やんだ

無機質な真っ白な部屋で、ベッドに横たわり微かな光だけの瞳をオレに向け、親父は乾いた唇を開いた

「耕作…」
「なに？」

「私がこれから話すことを、しっかりと聞いて欲しい…、私に残された時間はもう僅かだ、…耕作、私は死ぬことは怖くはない、…お前はもう自分の光を見つけ、しっかりとその場所に向かって歩いている、心配はしていない…ただ死ぬ前に、心残りがたったひとつだけ…ある…」

「…心残り？」

「…あの日、私が運命を変えてしまった…お子様だ…」
「運命を…変えた…？」

意味が分からなくて尋ねるオレに、親父は小さく頷き、両目から涙を流した

「父さん、一体何があったんだ？」


問いただすオレに、親父は浅い呼吸を繰り返しながら、喉から絞り出すようにして声を出した

「山下の…外腹に生まれたお子様を…家名の為と言われ……母親の元から連れ去り、見知らぬ場所に…置き去りにした…、この家に必要なのは‪α‬のみ…、Ωには…存在価値が無いと言う理由で…私は、小さな命を…奪い去る事に加担した…、あの日私は…悪魔に魂を売り渡したんだ…、」

ﾊｧ…と深く息を吐き、心の奥に巣食っていた後悔や口惜しさを、握り潰すように掌を握り込んだ

「…どうして、そんな事に…」
「家名を…守る為と言われたなら…従うしか、無かった…貴方は間違っていると、言える勇気が…当時の…私には無かった……弱い父親を、許してくれ…耕作…」


父親…、それが断れなかった理由だろう
オレを守る為に…この人はその手を闇色に染めた


流れ落ちる涙が、真っ白なシーツに吸い込まれていく

「…耕作、…頼む、あのお子様を探してくれ…そして…私の愚かな行いを…この命を以て償いに変えて欲しいと、伝えてくれ…」

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