たくさんの缶詰。【wrwrd！】短編集 (ページ8)

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不器用。 zm. ページ8

※学パロ注意

｢俺はショートカットの方が好きやな。｣

たまたま聞こえてきた幼馴染み兼好きな人であるゾムの声。

どうやら男子同士で恋バナとやらをしているらしい。

そうか短い方が好きなのか。

小さい時はボブくらいだったがゾムに似合わない、とハッキリ言われてからは伸ばしてきた。

つまり遠回しに私は恋愛対象ではないということか…？

言われたのは昔のことだ。

好きなタイプなんてものはすぐに変わる。

ダメ元でもいいから今日理容院行くか。

丁度鬱陶しいと思っていたところだし。

そう思い私は昔と同じくらいの長さにすることを決めた。

次の日登校していると友達と会い、驚きながら
「すっごい似合うね！」
なんて言われた。

ゾムはなんか言ってくれるのだろうか。

少しの期待と不安を抱きながらも教室のドアを開ける。

ゾムの席は一番後ろでドアを開けたらすぐに目が合う。

彼は目を見開きながら

｢えっ、髪切ってしもうたんか｣

なんて口を開けた。

｢似合う？｣

｢·····俺は長い方が好きやった。｣

最悪

その一言に尽きる。

やはりゾムの中では私は恋愛対象に入っていないのか。

髪なんて切らなければよかった。

そもそも眼中にないのであれば髪を切ろうが切らなかろうが関係なかったではないか。

悲しくてつい泣きそうになる。

しかしここは教室。

泣いたりしては注目の的になってしまう。

ぐっと堪えてそっか、と笑うと自分の席へ急いで行こうとした。

なにかに腕を引っぱられてバランスを崩す。

うぉっ、と女っ気のない声を出すと耳元でゾムの声が聞こえてきた。

｢今日一緒に帰るぞ。｣

珍しい。

一緒に帰ったのは小学生以来じゃなかったっけ。

好きな人と帰る、なんてまるで夢のようなことだが私はもう失恋したも同然なのだ。

少し憂鬱になりながらも頷く。

放課後になり一緒に無言で帰り道を歩く。

会話内容を必死に探すが特になくただただ時間が過ぎていく。

｢なあ、｣

ゾムが唐突に私に話しかける。

｢今日朝悪かったな、似合わないなんて言って。｣

｢別に気にしてないよ？｣

もちろん嘘だ。
内心では気にしまくりだ。

｢悲しそうな顔しとったから。
別に似合わないことないねん。
むしろ似合ってると思う。｣

ゾムが一息つく。

｢ただボブのお前を俺だけか知っときたかったんよ。｣

顔を赤くしながら言うゾム。

これは脈アリ、とかいうやつだろうか。