【銀魂】鬼と鬼神【土方十四郎】

三十八 ページ40

沖田.side


静かになった部屋の中は､まるでさっきまでの喧騒が嘘のようだ｡
たった二人を残して､他の奴らは全員ダウンしている｡
……アンタらは適量って言葉を知らねぇんですかぃ？

『……みんな寝た……』
沖田「………ｯﾁ…めんどくせぇなぁ……」

アイツを横目に見ると､いまだにヤローの頭を撫でている｡
よくもまぁ公衆の前で……
その視線に気付いたのか､アイツの顔が俺を向いた｡

白い肌が月明かりに輝き､
黒い髪がカーテンのように靡いた｡
ただ座っているだけ……
ただ月光を浴びているだけなのに…


それだけでアイツは憎たらしい程に美しい｡


沖田「………おい…」
『……何』

首の後ろに､いつかのように熱が集まっている｡
俺は､腹が立つほどに微妙な量だけ残っている酒を持ち､縁側に座った｡
せいぜい､一杯ずつってとこだな｡
流石に察したのか､アイツもヤローを下ろして､手元にあったコップを持って俺の隣に座る｡

沖田「ったく………こんだけじゃ呑んだ気にならねぇだろよ…」
『……全部呑んだらいいと思う』
沖田「全部の量がそもそも少ねぇんでぃ｡こんなんじゃ､一杯だろうが全部だろうが変わらねぇ」
『……そう』

自分のコップに酒を注ぎ､ちびちびと呑み始める｡
余った分は､アイツが自分の持ってきたコップに注いだ｡
手元の酒が月明かりに反射して､黒髪が照らされている｡
まるで猫のようにちろりと酒を舐める真紅の薄い小さな唇が濡れて､余計に本当の歳が分からくなった｡
体つきも一つ一つの仕草も､そして表情も…
その全てが､十四〜十八歳にしてはあまりにも
大人の女の"それ"だ｡

沖田「………何で…」
『……？…』
沖田「何で､昼間俺に抱き付いた」

体も顔も視線も､全てを美しい月に向け､声だけで問い掛けた｡
今日の昼間､コイツは俺に抱き付いた…
あまりに唐突過ぎて､そして一瞬のことで､頭が追い付かず､暫くあの場で立ち尽くす事しかでき無かった｡
おまけに最後の……




＿＿＿＿……ごめんなさい






沖田「どういうつもりなんでぃ」
『……貴方が､苦しそうだったから』
沖田「………あ"？」

俺と同じように､アイツも月を眺めたまま呟く｡
アイツは､再び酒をちろりと舐めると､細い喉をコクリと鳴らした｡

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