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「ん?」
扉の少し手前で止まるのんちゃんの横で、私は『開』と書かれたボタンを人差し指で押す。
「あの……」
ずっと、言いたくて、伝えたくて。
でも、それを言っていいのかわからなかった。
それでも。
「私、なんも知らんけど……私が見たのんちゃんと一緒にいるユキ先輩は、幸せそうやったよ、すっごく」
やっぱり、言っておきたいと思った。
ホントノコトなんて、私はもちろん、のんちゃんだって知らないんだろうけど。
ユキ先輩があんな顔をしてたことは、先輩ものんちゃんも幸せそうで、サヤカちゃんの時よりもっと高い場所から突き落とされたような気分になったのは、本当だから。
おせっかいだとしても、ユキ先輩がのんちゃんを好きじゃなかったようには、見えなかったから。
フフッ、とのんちゃんが息だけで笑い、「ありがと」という小さな声と同時にポンポンと頭に2回掌が乗る感覚。
そのままエレベーターの外に出るのんちゃん。
手を振ろうすると「あ、そうや」のんちゃんが何かを思い出したように振り返ったから、私は『開』のボタンを押し続ける。
「ん?」
「なんか、バーベキューしよみたいになってんけどさ、あ、ええわ、俺も一旦上行く」
もう一度箱の中に入り、「ええよ、閉めて」とのんちゃんがボタンを押していた私の人差し指を指す。
「大島って知ってる?サッカー部の」
「E組の?」
「そうそう」
「名前と顔は一応知ってる」
「なんかそいつんちでバーベキューしよーって話に部活の時なってんけど、男だけでやってもしゃあないし適当に誘おってなったからさ、A来る?」
「バーベキュー?」
またエレベーターが止まり、今度は二人一緒に11階で降りる。
「うん」
「なんか、知らん人多そう」
もちろん行きたい、けど。
かなりアウェーな感じがする。
「でもとりあえず俺とシゲと、あと流星も知ってるやろ?で、神ちゃんもたぶん来るし平気ちゃう?てかたぶんお前と、野崎さん?」
「ユウちゃん?」
「そうそう。二人はどうせシゲが誘うと思うけど」
「来たら?」なんて少し首を傾げて言われて、頷く以外の選択肢は私にはない。
「オッケー、じゃあまた連絡する」
手を振って、階段の方に歩いて行くのんちゃん。
家に帰り自分の部屋に入ると、力が抜けたように座り込んだ。
のんちゃんが触れた頭に、自分の手をそっと乗せてみる。
のんちゃんの大きな手とは全然違くて、そのことにまた胸がイッパイになった。
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作者名:花音 | 作成日時:2016年7月9日 14時