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「よっ」


コンビニ袋を持った右手を軽く上げたのんちゃんに、小さく手を振り返す。

そのまま訪れた沈黙に、何を話せばいいのかわからない。


「何してたん?」

虫の鳴き声と微かな車の音だけが聞こえていた空間で、のんちゃんが先に口を開いた。


「シゲとおったやろ」


……見られてたんだ。


「遊んでた」

「…付き合ってるん?」


家まで一緒に帰ってきたんだから、きっとその質問は自然なことで、それでものんちゃんに好きだって言ったばかりなのにそう聞かれたことに、少しだけ胸がチクッとした。


「…ううん」


そう答えたときに、エレベーターが来てドアが開き、一緒に中に入る。


「……今日、何の日か知ってる?」


その質問は、昨日のシゲと、一緒。


「……誕生日やろ?シゲの」

「うん」


一瞬何か言いたげな顔をしたけれど、何も言わなくなったのんちゃんに私も何も話せなくて、再びやってくる沈黙。

エレベーターがガコン、と小さく振動して9階に着いた。


「俺、Aのことフッたことになってる?」


ボタンを押して扉を開けたまま、こちらを見ずにのんちゃんが口を開いた。


「え?」

「こないだの、もうなかったことになってんの?」

「……どういうこと?」

「俺、Aのこと……好きかは、わからへんけど……でも、他の女子と一緒やって思ったことは、たぶんない」


のんちゃんがボタンから手を離すとドアは閉まり、そのまま上に動き出す。


「降りなくてええの?」

「まだ途中やから」


エレベーターはすぐに11階に着いて、先に出たのんちゃんに続いて私も出た。


「……俺のこと好きなんとちゃうの?」

「…え?」

「……シゲと、付き合うなや……」


それは、どういう意味?


「ちゃんとはっきりさせるから、もうちょっと……時間ちょーだい」

「…それは…自分のこと好きやった人が他のとこいくのが嫌とか、そういうやつやろ…」

「別に今まで他の子に対してこんなん思ったことない」

「……」

「Aだから思った、じゃアカンの」

「…言ってることの意味わかってる?」


のんちゃんが、伏せてた目を少し上げる。


「時間頂戴って言って、結局やっぱり好きじゃなかったとか言うん?」

「……」

「勝手や、のんちゃん」


静かにそのまま家に帰り、自分の部屋に入った。


脳内で繰り返されるのんちゃんの言葉と、まだ覚えているシゲに抱きしめられた感触に、心臓が何度も何度もぎゅうっとなった。

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作者名:花音 | 作成日時:2016年7月9日 14時

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