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懐かしい、と思った。


小4くらいの頃、昼休みに何人かの女の子がわたしの机を囲った。


『望のこと好きなん?』

『好きちゃうよ』

『アユミがな、望のこと好きなんやって!協力して!』


協力してと言われ曖昧に頷いたものの、あの頃の私達は、『付き合う』なんてよくわかっていなくて、特に何かした記憶はない。

それでも、打ち明けられるだけで小さなプレッシャーのようなものを感じた。


中学や高校ののんちゃんに彼女がいない時期も、同じようなことがあった。


いつの時代も、いくつでも、恋をする女の子達は真っすぐ、ただ相手も自分と同じような想いを抱いてくれることを願う。


そこに悪意があるわけではないことがわかるから、余計になんて答えたらいいのかわからない。


『好きちゃうよ』と答えれば、次はきっと、気持ちを打ち明けられる。



「関野」


突然後ろから聞こえた声は今まさに話題に上がっていた人のそれで、慌てて振り返る。


「えっ?」

「飲み物買いに行かへん?今一緒に行く人おらんねん」


コンロの方に目をやるシゲにならってそっちを見ると、シゲと仲良い人達はみんな焼いているか、ガッツリ食べているかのどちらか。


「もうなくなりそうやから。行こ」

そのままスタスタと歩き出したシゲを無視するわけにもいかず、アミちゃんに一言謝って慌てて椅子から立った。



「あっつー」

半歩後ろを歩いていると、シゲが口を開く。


「…ね」


とりあえず相槌を打つと「関野全然焼けてへんな」なんて振り返り少しスピードを落としたシゲが言う。


「…まあ、移動くらいしか外出えへんし」

「うわー、不健康」

「わざわざ外で遊ぼうと思わへんもん」

「海とか行ってへんの?」

「行かんやろ」

「もったいなー、夏休みやのに」

「シゲ行ったん?」

「行ってへん」

「なんやねん」


そこに流れる空気はあまりにも普通で、今まで通りで、どんどんわからなくなる。


「でも顔ちょっと赤なってるで」

覗き込むように私の顔を少し見て言うシゲ。


「うそ」

「ほんま」

「日焼け止め塗ったのに。もう汗で落ちたかな」


ぽんと頭の上に何かが乗せられて、見るとシゲが被っていたキャップ。


「貸したる」


そう後ろ髪を掻きながら言い、「熱中症なるで。引きこもりが急に外出て」なんて続ける。


「引きこもってはないけど。ありがとう」


ハハッと笑うシゲをチラッと見る。



わからない。


また、『普通』を装っているだけ?

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作者名:花音 | 作成日時:2016年7月9日 14時

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