蒼色マーブル３【桃】 (ページ16)

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ガムテープの芯をゴミ箱に入れると、もうゴミ箱はいっぱいだった。

「今日ゴミ捨てられるっけ？」

すぐそこで作業してる神ちゃんに聞く。

「たぶん」

「じゃあ行ってこよ」

燃えるゴミとペットボトルのゴミ袋がいっぱいだったので、二つとも縛る。

「あー、俺今これ押さえてるから立たれへん」

膝の下のダンボールを指して言う神ちゃん。

「シゲとか暇そうやから…」

「ハハッ、二つくらい一人で持てるって」

慌ててそう言うと、神ちゃんの語尾と少し重なった。

「…まー、そか。いってらっしゃい」

「いってきまーす」

ゴミを捨てて一人で歩いているとなんだか疲れて、自動販売機で冷たい缶のココアを買い、中庭のベンチに座る。

「なに、関野熱中症？」

突然校舎の窓から顔を出す中間先生。

「熱中症でわざわざ外で休むやつおります？」

「ハハ、何？サボってんの？今日F組準備してたやん」

「サボってません、休憩です」

「お前あれやな、世界の終わりみたいな顔で休憩するんやな」

「…そこまでの顔してなかったですよね？絶対」

「まあこの街の終わりくらいかな」

「青春やな」なんて中間先生がふっ、と笑う。

「……この街の終わりに青春って」

「なんでや、青春やろ」

「……まあ先生からすればそうかもしれないですね、おじさんやし」

「おい」

「ごめんなさいごめんなさい」

コワイコワイ。
一瞬物凄い目をされた。

「…よくわからんけどさ、悲しいこととか苦しいことが全くない人生は幸せちゃうよ」

「…なんでですか？」

「楽しくないことを知ってるから楽しい時に楽しいって思うねん。それが普通やったらなんとも思わへん」

「…はぁ」

「普段水飲んだってなんにも思わんけど、もし砂漠の真ん中であー死ぬわーってときに水出てきたらもう幸せどころの騒ぎちゃうやん」

「そうですね」

「水なくて苦しいこと知ってるから、やっと水があることが幸せになんねん」

窓の冊子に肘を乗せた先生に「わかる？」と聞かれ、「なんとなく」と返す。

「人間はどうやって、『陽気』という概念を見つけ出したのか。どうやら、悲しみの反対のものとして、考えだしただけのようです」

「なんですか、オードリー・ヘップバーンですか」

「ちゃう、カフカ」

誰かわからずに首をひねる。

「作家」

「へぇ」

「まあ頑張りや。青春やで」

「おじさんやん」

ひと睨みきかせた中間先生が、そのまま廊下を歩いて行く。