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「A切って」
冷蔵庫から箱を取り出したお母さんに呼ばれ、ケーキを切る。
のんちゃんが私の家にいるのなんて何年ぶりだろう。
切ったケーキをお皿にのせてのんちゃんの前に置くと、「ありがとう」と笑顔を向けられた。
「コーヒー、ミルク入れる？」
「いや、そのままで。ありがと」
のんちゃんの隣に私。
私の前に、お母さん。
三人でテーブルを囲う風景は、なんだか不思議で落ち着かない。
「どこ行ってきたの？」というお母さんの質問に、のんちゃんが答えたところから仲良く話し出す二人。
なんだか私が蚊帳の外みたいな、変な気分になる。
「あ、あの」
しばらく話に花を咲かせた後で、唐突に真剣な顔ををするのんちゃん。
「なに？」
お母さんにそう聞かれると、眉を下げて苦笑いみたいな顔に変わった。
「……あの、A…ちゃんと、お付き合い、してます」
玄関で話していたときみたいに、伺うように見るのんちゃんに、お母さんが「ハハッ！」と吹き出した。
「ありがとう、丁寧に。でも初詣行きたいなんて言われればもうわかるで」
お母さんの言葉に「あ、やっぱりですか？」なんてのんちゃんも笑う。
私は、そんな二人を横目にひたすらアタフタしてた。
「でもちゃんと言った方がええかなって」
「フフ、ありがとう。のんちゃんならお父さんも大喜びやと思うよ」
お母さんがふふ、と笑って「こんな子やけど」と続けた。
いつもなら「こんな子って！」くらい言ったかもしれないけど、今の私にはそんな余裕ない。
「よろしくね」
「はい」
フォークを置いたのんちゃんがぺコっと頭を下げる。
「大切にします、ちゃんと。まあまだまだ子供ですけど」
それは、お母さんに言ったはずの言葉なのに、私の心臓をこれでもかってほどに動かした。
そんな中でお母さんは「イケメン！」なんて呑気に笑ってて、のんちゃんも少し照れたように笑うとまたお母さんと会話を始めて、私はずっとずっと一人下を向いてケーキを食べた。
.
「初詣のとき、迎えに行くな」
そうコソッと言ったのんちゃんを、お母さんと一緒に玄関まで見送る。
「ほんじゃのんちゃんまたね」
「ありがとうございました、ごちそうさまでした！」
お母さんから視線を移したのんちゃんと目が合って、「今日ありがとな」なんてぼそっと言われる。
コクコクと頷くと、笑ったのんちゃんがお母さんにもう一度お礼を言って外に出て、代わりに冷気が入って来る。
死んじゃうかもしれない、なんて思った。
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りぃな - 最近花音さんの作品に出会い、いくつか読ませて頂きました。どれも時間を忘れて読み進めてしまうほど面白く、大好きです。制服黒髪小瀧くん、サイコーでした！まっすぐな重岡くんもすごくいい奴で、一年分のキュンキュンを味わった気がします 笑 (2020年10月9日 22時) (
レス) id: 6d972d4f2d (このIDを非表示/違反報告)
らっく。(プロフ) - もう完結してしばらく経ってしまっているので今さらのコメントです…。花音さんの作品、他にもいくつか読ませて頂きましたが、どの作品も描写が丁寧に書かれていて目の前に起こっている出来事のように思えます。「関野のおかげで楽しかった」のコメント狡いな〜っ (2018年11月29日 2時) (レス) id: 2be3d0728d (このIDを非表示/違反報告)
花音(プロフ) - まろんさん» 読みながら絵が浮かぶものを書けたらいいなと思っていたので、入り込んでくださったなんてすごく嬉しいです。素敵な感想ありがとうございました。これからも楽しんでいただけるようなものを書けるよう頑張ります。 (2017年6月4日 19時) (レス) id: 819da26d91 (このIDを非表示/違反報告)
まろん - 凄く文字が丁寧で読んでいてスっと入り込めたストーリーでした。私より年下の方がこんなにもいい小説を書いたのだと素晴らしいなって。主人公になって読んでみて入り込み過ぎてしまいました。これからも次回作楽しみにしております (2017年5月13日 15時) (レス) id: c7f87c9170 (このIDを非表示/違反報告)
花音(プロフ) - ちかさん» ありがとうございます。学生だからこそ、というような時間を楽しんでいただけたならなによりです。ファンだなんてもったいないお言葉をありがとうございます。彼の番外編は書くつもりなので、またお会いできたら嬉しいです！ (2017年4月29日 16時) (レス) id: 819da26d91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：花音
| 作成日時：2017年3月27日 22時
