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「ほんまに」

赤信号は形だけでもうほとんど車は通らないけれど、しっかり止まったのんちゃんが私の目をじっ、と見る。


「え?」

「ほんまに、ちゃんと大切にするから」

「……」

「いろいろ、間違えた分、これからは大切にするで」


少し腰を折って言ったのんちゃんが「誓いのキスする?」なんて冗談ぽく口角を上げた。

語尾を上げて疑問形だったはずなのに、浮かんだ笑顔はすぐに消え、何か言おうとした唇は静かに塞がれた。

ゆっくりと唇が離れると、できた沈黙。


「まあ、間違えたから今があるとは思うけどな」

のんちゃんが、ぽつりと言い、ふは、と笑った。


「…うん」


遠回りに、無駄なことは一つもなくて。
というよりも、一見無駄なことに大切なことが詰まってるのかもしれない。


「これからも、いろいろあると思うけど」


正解だけを辿って来れれば早いけど、分かれ道も落とし穴も行き止まりも、ぜーんぶつきもの。
それはきっと、これからも。


「隣にいてくれる?」


私のセリフだ。
そう思ったけど、口に出せば、のんちゃんはまた『だからちゃう』って口を尖らせると思うから、ちゃんと目を見て頷いた。


スン、と鼻を啜ったのんちゃんが私の両肩に手を置くともう一度キスを落として、ゆっくり目を開けば視線が絡まる。

うるうるとした瞳。
恥ずかしくて逸らしたくて、でも逸らせない。
引き寄せられてるみたいに、のんちゃんの目に捕まる。


のんちゃんの手が、肩から頬に移って、さっきよりも少し長く、唇が触れた。


目が合って、恥ずかしそうにクスクスと笑うのんちゃんを、おんなじだ、と思って、私も頬の熱さを誤魔化すように笑った。


いつもより少しだけ電気がついている家が多いのかもしれないけれど、街は闇に飲み込まれていて、街灯だけが必死に黒に立ち向かおうと頑張っている。


それでも、私にはどんな景色よりもキラキラとして見えた。


のんちゃんと私の間に、距離がない。

どこかふわふわとした気分なのに、顔に刺さるびゅうっと冷たい風が、現実だよって教えてくれる。


神様に二人同じことを祈ったから、一つ10円になったお願いごとが、叶いますように。

叶えるのは自分たちかもしれないけれど、応援くらいはしてくれますように。


同じ道、同じものを見て、並んで歩く。


今までも、これからも、きっといつか思い出したとき、あたたかくてなんだか少し泣きたくなるんだろう。


のんちゃんが笑いながら私を見下ろして、私も笑った。

二人の笑い声が、夜に馴染んでいく。

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りぃな - 最近花音さんの作品に出会い、いくつか読ませて頂きました。どれも時間を忘れて読み進めてしまうほど面白く、大好きです。制服黒髪小瀧くん、サイコーでした!まっすぐな重岡くんもすごくいい奴で、一年分のキュンキュンを味わった気がします 笑 (2020年10月9日 22時) (レス) id: 6d972d4f2d (このIDを非表示/違反報告)
らっく。(プロフ) - もう完結してしばらく経ってしまっているので今さらのコメントです…。花音さんの作品、他にもいくつか読ませて頂きましたが、どの作品も描写が丁寧に書かれていて目の前に起こっている出来事のように思えます。「関野のおかげで楽しかった」のコメント狡いな〜っ (2018年11月29日 2時) (レス) id: 2be3d0728d (このIDを非表示/違反報告)
花音(プロフ) - まろんさん» 読みながら絵が浮かぶものを書けたらいいなと思っていたので、入り込んでくださったなんてすごく嬉しいです。素敵な感想ありがとうございました。これからも楽しんでいただけるようなものを書けるよう頑張ります。 (2017年6月4日 19時) (レス) id: 819da26d91 (このIDを非表示/違反報告)
まろん - 凄く文字が丁寧で読んでいてスっと入り込めたストーリーでした。私より年下の方がこんなにもいい小説を書いたのだと素晴らしいなって。主人公になって読んでみて入り込み過ぎてしまいました。これからも次回作楽しみにしております (2017年5月13日 15時) (レス) id: c7f87c9170 (このIDを非表示/違反報告)
花音(プロフ) - ちかさん» ありがとうございます。学生だからこそ、というような時間を楽しんでいただけたならなによりです。ファンだなんてもったいないお言葉をありがとうございます。彼の番外編は書くつもりなので、またお会いできたら嬉しいです! (2017年4月29日 16時) (レス) id: 819da26d91 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:花音 | 作成日時:2017年3月27日 22時

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