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「遅くなる前に帰ろか」
「Aのお母さんに嫌われたないし」なんて付け足して、小さく笑ったのんちゃん。
のんちゃんの左手と私の右手の甲がコツン、と当たる。
すると今度は掌が触れて、指が絡まった。
そうしたらのんちゃんの指の方がゴツゴツしていることが簡単にわかって、男の子なんだ、とひしひしと感じる。
改札を通る時に離れた手が、少し寂しい。
「またどっか行きたいな」
電車の中でのんちゃんがそう言って私を見下ろす。
頷くと、「いつ空いてる？」と吊革ではなく上の棒を掴んでいる腕に頭を乗せるのんちゃん。
「一日の午後からおばあちゃんち帰って、あとはユウちゃんと遊びたいねって話はしてるけど、まだちゃんとは決めてへん」
「なるほどな」
「のんちゃんは部活あるやろ？」
「そうやな、年末年始は休みやけど」
「そっか」
少し考えるように頭を起こしたのんちゃんがぱっとこちらを見る。
「…初詣行く？」
「行きたい！」
「あのさ、年越したとき…に、行きたいんやけど」
唇を少し噛んでちらっと見るのんちゃんが可愛くて、暖房が効いた車内で、更に一人暑くなる。
「…私も行きたい、けど」
「ん？」と首を傾けるのんちゃんの声が、いつもより優しい気がする。
「お母さんに聞いてみなきゃ」
「そうやんな」
「…のんちゃんとって言えば、大丈夫な気もするけど」
はは、と優しくのんちゃんが笑った。
駅から家までのバス。
二人がけの椅子は広くなんてなくて、肩から二の腕がずっとのんちゃんとぴったりくっついていて、体の熱さはなかなかおさまらない。
窓際に座っていた私が、降りるバス停の前で横のボタンを押す。
「次、停まります」という無機質な声に、もうこの時間が終わりだと告げられるようでまた少し寂しくなった。
のんちゃんが立ってからちらっと振り返って私も立つのを確認してくれる、それだけのことがすごく嬉しい。
ほんの少しの距離なのに、ふわりと触れた手と絡められた指に、さっきの出来事が本当なんだってまた実感した。
エレベーターに乗り込み、ボタンの前に立ったのんちゃんが人差し指で11と書かれたボタンを押す。
「9階は？」
「ん？」
「9階押さへんの？」
「うん」
忘れてると思って言ったのに、あまりに自然に帰ってきた言葉に驚き、何も言えない。
エレベーターのドアが開き、のんちゃんが半歩前をスタスタと歩いていく。
そのまま私の家の前に来ると、当たり前のようにインターホンを押した。
ピンポーン、と廊下に響く間延びした音に私はまた言葉を失った。
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りぃな - 最近花音さんの作品に出会い、いくつか読ませて頂きました。どれも時間を忘れて読み進めてしまうほど面白く、大好きです。制服黒髪小瀧くん、サイコーでした！まっすぐな重岡くんもすごくいい奴で、一年分のキュンキュンを味わった気がします 笑 (2020年10月9日 22時) (
レス) id: 6d972d4f2d (このIDを非表示/違反報告)
らっく。(プロフ) - もう完結してしばらく経ってしまっているので今さらのコメントです…。花音さんの作品、他にもいくつか読ませて頂きましたが、どの作品も描写が丁寧に書かれていて目の前に起こっている出来事のように思えます。「関野のおかげで楽しかった」のコメント狡いな〜っ (2018年11月29日 2時) (レス) id: 2be3d0728d (このIDを非表示/違反報告)
花音(プロフ) - まろんさん» 読みながら絵が浮かぶものを書けたらいいなと思っていたので、入り込んでくださったなんてすごく嬉しいです。素敵な感想ありがとうございました。これからも楽しんでいただけるようなものを書けるよう頑張ります。 (2017年6月4日 19時) (レス) id: 819da26d91 (このIDを非表示/違反報告)
まろん - 凄く文字が丁寧で読んでいてスっと入り込めたストーリーでした。私より年下の方がこんなにもいい小説を書いたのだと素晴らしいなって。主人公になって読んでみて入り込み過ぎてしまいました。これからも次回作楽しみにしております (2017年5月13日 15時) (レス) id: c7f87c9170 (このIDを非表示/違反報告)
花音(プロフ) - ちかさん» ありがとうございます。学生だからこそ、というような時間を楽しんでいただけたならなによりです。ファンだなんてもったいないお言葉をありがとうございます。彼の番外編は書くつもりなので、またお会いできたら嬉しいです！ (2017年4月29日 16時) (レス) id: 819da26d91 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：花音
| 作成日時：2017年3月27日 22時
