君へのSong (ページ10)

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正門さんが新しくストリートライブを始めた駅は、わたしと大吾さんのバイト先の目と鼻の先だった。

初日はやっぱりいつもよりかなり観衆が少なくて、その分わたしは大きく拍手して、大袈裟にリアクションをした。

みんなそんなに急ぎ足で帰らなくたっていいのに。

わざわざ蔑むような目で見なくてもいいのに。

こんなにあったかい音楽が、こんな優しい人がここにいるのに。

これからどんどん有名になるのに。

もったいないなぁ。

演奏が終わるとわたしはいつも通り片付けを手伝う。

ギターケースの中の小銭を数えながら、正門さんがため息をつく。

「近いしファミレス行く？」

「コンビニがいいです」

2人っきりならどこでもいいですと心の中で呟く。

「そう」

駅から1番近いコンビニで缶コーヒーとココアを買う。

「なんかこうもっと、たくさんの人の前で歌える機会があったらええねんけどなぁ」

正門さんが飲み終えた缶を捨てて、暗い空を見上げる。

アンニュイな横顔もかっこいい。

きっとわたしが思ってる何百倍も不安なんやろうな。

「Aちゃん、商学部やねんなぁ」

正門さんが手持ち無沙汰になったのか、急にわたしのゆるくパーマをかけた髪を指先で絡め取る。

「大吾さんにきいたんですか？」

心臓の音を悟られないように、にこっと微笑む。

「うん。文系と理系じゃ全然会わへんの？」

「そうですねー。校舎も授業も被んないですしね！まぁ、大吾さんはバイトばっかしてて授業出てるんか謎ですけど」

「そっかー。ええな大学。俺も行ったらよかったかなー」

正門さんの指先にわたしの毛先がくるくると絡まっていく。

「正門さんが行くのはもっと別の場所です」

真っ直ぐで優しい瞳にわたしがうつっている。

「いつかCDを出して歌番組に出て大きな会場をたくさん回るツアーをするんです」

その瞳の奥にこの言葉は届くんやろうか。

「ありがとう。Aちゃん」

絡め取った毛先がほどかれて、ふわりと男の人の匂いがする。

わたしは正門さんのたくましい腕の中に包まれていた。