君へのSong (ページ46)

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「誕生日のお祝い、したいなって思って来てしもた」

ギターケースを背負い、もう寒いんじゃないかなぁっていう黒い革ジャンを羽織った正門さんがそう微笑む。

正門さんの姿を見た瞬間、大吾さんは自転車にまたがってあっという間に帰ってしまった。

久しぶりに見る大好きな人の顔に、胸がぎゅっとなって頬が緩む。

「ほんま全然時間とれんくて、こんな深夜に突然きてごめんな」

「ううん。わざわざ来てくれてありがとうございます。会えてうれしいです…」

ぎゅっと革ジャンの袖を掴むと、正門さんは自然に指を絡めてきた。

ちょっと乾燥した指先と手のひらが愛しい。

メジャーデビュー前なのに異例の新人と話題になってる正門さんは、CMのプロモーションイベントや深夜の音楽番組にも出演するようになって本当に忙しそうで。

イベントはもちろん地元の大阪でもあったけれど、わたしは彩月さんの言葉が引っかかって行けずにいた。

その間も連絡はくれるけれど、こうやって会えたのは本当に久しぶり。

手を繋がれたまま、正門さんはわたしの家には上がらず、夜道を歩き出した。

「どっか行くんですか？」

「うん。そこに公園あったやんな？」

近所の公園にたどり着くと正門さんは自販機で、コーヒーとココアを買って渡してくれる。

「寒いのにごめんな。ちょっとだけつきあって？」

正門さんはそう言うと、わたしをベンチに座らせて、ギターケースを開け始めた。

「さすがにこれアパートで深夜に弾いたら怒られるやろうから」

笑いながらアコースティックギターを取り出して、

「ハッピーバースデー遅れてごめん。Aちゃん」

隣に座って足を組むと、控えめにギターをかき鳴らしながら有名なバースデーソングを歌ってくれた。

イヤホン越しじゃない、声と音が、正門さんの歌にのるわたしの名前が、すごくうれしい。

「ふふっ。うれしい。ありがとうございます」

ココアの缶を置いて思わず身を乗り出すと、ピックを薬指と小指に挟んだままの正門さんてのひらが、ひんやりとした頬を包んだ。