君へのSong (ページ48)

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大学はもう冬休み。

道頓堀の混沌とした人混みで、正門さんの歌声が聴こえてふと顔をあげると

派手な看板に囲まれたモニターにイレブン飲料のCMが流れていた。

「この曲いいやんな！ダウンロードしちゃった！」

「わかるー！あの一瞬映るギターの人渋くてかっこいい！」

女子高生がわたしと同じようにモニターを見上げてはしゃいでいる。

嬉しくてにやけそうになるのを堪えながら、コンビニに入って、息を吸うみたいにホットティーを買う。

そのまま隣のスタバに入り、併設された地下の本屋へ降りる。

音楽雑誌が並ぶコーナーへ進んで、表紙にクレジットされた彼の名前を噛み締めながらページを開く。

見開き2ページに特集された正門さんが飛び込んできて、胸が熱い。

家の近くの本屋にも大学の近くの本屋にも置いてなくて、わざわざ難波まで買いに来たけどあってよかった。

イベントにはやっぱり行きづらいけれど、それ以外のところでも十分正門さんを感じられるくらい、有名になったんだなぁって思う。

雑誌を抱えてレジへ向かうと、ポケットに入れたスマホが振動した。

見覚えのない番号。

不安を感じながらも応答ボタンを押す。

「もしもし？」

「もしもし、Aさんの携帯かしら？」

凛とよく通る声にハイヒールの音が蘇る。

「…はい、そうですけど」

「杉野彩月です。突然ごめんなさい」

「なんで、わたしの番号…？」

「いろんなところに要望送ってくださるじゃない？そこに書いてたの。緊急事態だから調べさせてもらったわ。ごめんなさいね」

「緊急事態ってなんですか？」

彩月さんの営業用の高いトーンが急に消えて、

「あなたに確認したいことがあるの。大阪事務所まで来てくださる？」

電話越しの彩月さんの声は何かをつらぬくような鋭さで、怒りを纏っているみたいだった。