君へのSong (ページ16)

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大吾さんとふたりで駅に着くと、いつもの倍以上の人だかりができていた。

「こんなにおるん。ファン」

大吾さんが驚いたように周りを見渡す。

「いや、いつもここまでじゃ…」

雑誌効果…すごい…

にしても、増えたのはぼぼ女の子…

なんて考えていると、いつもの挨拶とやわらかい音色が聞こえてきた。

ぎゅっと吸い込まれるこの感じ…

正門さんの音楽が紡ぎ出されるこの感覚…

遠巻きにじっと見つめていると、正門さんと目が合う。

大吾さんにも気づいたらしく、嬉しそうに微笑みかけてくる。

「こんにちは」

演奏にのめり込んでいると、凛とした声が降ってきた。

「ひぇっ」

真っ赤なリップを塗った彩月さんがわたしの隣に立っていた。

お互い何度も居合わせてはいるけれど、話しかけられたのは初めてで、思わず変な声が出てしまう。

「いつも見かけるけれど、あなた…」

「ファンです！ただの！」

何を焦ってるんや…わたし…

「ごめん、怖がらせちゃった？あれ、お隣の子、この前の店員さん？」

「どうも」

大吾さんが軽く頭をさげる。

「改めまして、杉野彩月です」

彩月さんは、それぞれに名刺を渡してきた。

「彼のこと聞かせてほしいの。彼、きっと売れるわ。あの記事でこの集客だもの」

彩月さんは長い髪をかきあげながら続ける。

「なんで、そう思うんですか？」

「顔がいいもの。絶対ファンがつく。控えめなのが難だけど、磨けば絶対売れる」

脳内にイケメンギタリストの文字が浮かび上がる。

確かにかっこいいけれど、正門さんは

ミュージシャンだ。

「正門さん、曲も歌詞も自分で作ってるんです。演奏も歌もすごくて」

わたしは思わず反抗的な口調になって、ぎゅっと拳を握りしめていた。

「もちろんそうね。それは大前提よ」

大吾さんは何も言い返さず、ボーッと正門さんを見ている。

「でもまぁ、アレンジはいいのにメロディに特徴はないし、歌詞もどの曲も言い回しが似ててなんか惜しいのよね」

「…」

わかったように言わないでと喉元まできた言葉を押し殺す。

大吾さんは、親友やのに悔しくないんやろうか。

「2人はお付き合いしてるの？」

彩月さんがわたしと大吾さんを交互に見る。

「ちゃいます」

隣から大吾さんの声。

こっちの会話も聞いていたらしい。

「お似合いだからそうかと思った。じゃ、また」

彩月さんはにこっと笑いながら、ヒールを響かせて歩いて行った。