泡が五十八 ページ8
太宰の“其れ”は長い間続いた、様に感じられた。其れはAの緊張から来る時間の長さであったのだろうが。
最後の仕上げとでも云うように、太宰は首筋から鎖骨に舌を下ろし、そこに優しく口付けた。
と思えば、強い力で其処を吸った。
「痛ッ」
「ごめんね。ふふ、善く似合ってるよ」
太宰は満足げに微笑むのだが、Aからすれば己の鎖骨は見えないのでてんで意味が解らない。
「何したの?絶対鬱血してるわ」
「そうだねぇ、鬱血。正にそれだよ。後で中也に訊いてごらん?直ぐ解るから」
「中也は……暫く帰って来ないわ」
Aが俯いて告げると、太宰は優しい声で、
「大丈夫、屹度あの莫迦は帰ってくるよ」
「うん、そうね……でも何時戻るか判らないから、姐さんにでも訊いてみようかしら」
「あ、それは駄目だよ、絶対」
急に語調が強くなった太宰に、Aは笑みを零した。
「解ったわ、中也に訊けばいいんでしょ」
「ああ、そうして呉れ給え」
太宰が云うならそうしようと約束して、Aは牢獄を出た。
別れの挨拶は互いに素っ気無かった。
それじゃあね。ああ、また。
それでも彼女は嬉しかった。
「どうじゃった、A。何か有意義な情報は訊き出せたかえ?」
「ううん。さすが太宰って感じだったわ」
「そうか。まぁ、そうなろうのう」
彼女を出迎えた尾崎は、Aの報告に顔色を悪くすることもなく、寧ろ嬉しそうに彼女に同意した。
矢張り、此の会談は尾崎の厚意だったのだろう。
「ありがとう、姐さん」
「何のことじゃ?」
小さく云った礼も軽くあしらわれたが、これで良かったのかも知れない。
尾崎に手を引かれ、Aは数ヶ月ぶりに温かい気持ちで部屋に向かった。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時