【文スト】ポートマフィアの人魚姫～second～ (ページ6)

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泡が五十六ページ6

「少し大人びたね」

鎖に繋がれた儘、太宰がそう云った。

「あれからもう、四年も経ったもの」

「……ああ、そうだね」

"あれ"とは友人の織田の死であり、太宰の失踪である。

Aは何度も太宰に憤った。
何故、織田について何も教えて呉れなかったのか。
何故、何も云わずに去って行ってしまったのか。

一番側にいて欲しい時だったのにーー。

そして気づいた。
太宰にとって、自身がそう思った人物が織田だったのだと。

其れからはただ只管に哀しかった。
太宰に会いたい、会えない。
外に出て探したい、二度とは出られない。
中原に話したい、忙しくて話せない。

今迄は当たり前ではなかったのだ。
自分の好きな人と一緒に、多少の不自由はあっても過ごせる事は、普通ではなかったのだ。
何故其れが叶ったのか、自分が我儘にも願ったからだ。
何故其れが成り立ったのか、皆が自分を優先して呉れたからだ。
何故其れを喪ったのか、

ーーーー自分が我儘だったからだ。

一度の拐かし、一度の失態からの逃亡、そして極め付けはあの日の脱走。

今迄の反省は、危機感は甘いものだったのだと思い知らされた。
喪って、初めて気づいた。

だから彼女は変わったのである。
尾崎の指導を受け、自ら進んで変わろうとしたのである。

云い成りになる事を、諦める事を覚えた。

だというのに、何故。
大人になった筈なのにどうして、首領に逆らいたい、此処から逃げて太宰と共に居たいと思ったのだろう。
此処で金輪際地上に上がらず、首領の傀儡として生きる人生をやめたいと思ったのだろう。
自由な生活を諦めたくないのだろう。

「A泣かないで呉れ。私は君を泣かせないと織田作の墓標に誓ったのだよ。そうだ、君は未だ行った事がないだろう。此処を出たら墓参りに行こう。」

いつの間にか涙が溢れていたらしい。
慌てて拭って、太宰を見詰める。
本当に、いいの？

「君がそうしたいと願うのなら」

Aの逡巡などお見通しの様に彼は云った。

再び光を見た気がした。

続けて云う。

「私は約束を違えない。君が忘れてしまっていても」

ふと、中原の言葉が思い浮かんだ。
その時感じた、懐かしさも。

何時か……屹度自由にしてあげる。何時になるか判らないけど、待っていられるかい？

拐かされ、罰として芥川と共に行動する様命じられた際、駄々をこねたAに、太宰はそう云ったのだった。

「待ってる、待ってるわ。何時迄も」

「ああ、約束だ」