泡が八十五 ページ35
「A、終わったかい?」
優しげな声が墓場に響いた。
夢から現実に引き戻されたかのように、彼女は一度ぱちくりと瞬きをしてから微笑んでみせた。
同時に、雫が頬を滑り落ちる。
太宰は優しく其れを掬って、Aの頬から滑らせた手で彼女の背中を押すようにして、抱き寄せた。
「泣く積りじゃ、なかった」
「うん」
「織田作にしたら、私なんて、何てことない存在だったかも知れないのに」
「そんなことはない」
「どうしてわかるの?」
「それは……」
一瞬言葉に詰まった太宰は、近くにありすぎて気づかなかった答えを見つけたように、恥ずかしげに微笑った。
「友達だからだよ」
「友達」
「そう。Aだってそうだろう?織田作の大事な友達で、君の大事な友達は織田作だ」
云いつつ、空いている方の手をAの手に絡める。
「そして私達は恋人同士だ。今日は君にこの事を伝えに来たんだよ、織田作」
墓石に注がれる視線には、四年前には無かった優しさが宿っている。
Aは太宰の手を握り返し、太宰に倣い墓石に向かう。
「織田作、私は太宰と生きていくよ」
昼間の太陽が柔らかく二人を包んだ。
*
「そう云えば、私、一人で居る時も同じことを云ってしまったわ」
「大丈夫だよ。こういう事は何度云っても、ね」
「そう、そうよね!」
墓参りの帰り道、風に美しい髪を靡かせながら、Aは終始ご機嫌であった。
然し、不意に其の顔が翳る。
「ねぇ太宰。矢っ張り何か顔を隠す物とか持って来るべきだったんじゃないかしら?」
「心配性だねぇ。それだと却って怪しいよ。其れに噂に踊らされてた殆どは君の顔を知らないし、巷では人魚姫はもう泡になって消えてしまったって云われている。気にする必要は無い」
「でもマフィアは……」
「其の点に就いても大丈夫。保証するよ」
にこりと微笑まれれば、Aは安心しきった顔で笑うしかなかった。
其の笑顔を見詰め乍ら、太宰は数日前の記憶を辿った。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時