泡が六十二 ページ12
暫く二人は見つめ合い、その後同時に目を逸らした。
「太宰に、会ったのか」
ふと口を突いて出たのは、正直一番訊きたかった、否、確認したかった事で、一番口には出すまいと思っていた事だった。
Aはきょとん、とした。
「うん、そう。云ってなかったわね」
彼女としては中原が既にその事を知っていたと思っていたのだろう。
そう云えば、何の前置きもなしに太宰の話題を持ち出した。
「俺も、会った」
「うん」
「ンで、聞いた」
この先も、云ってはいけない事だとと心では解っていた。
其れでも此の口は動くのだ。酔っている訳でもないのに。
「太宰と、自由になるのか?」
「……え?」
「はっきりと云わなかったし、意味を含ませた云い方をしたわけでもねェ。全然関係ない事を云われた。が、そう云う事なんだろうって思い至っちまうほどには、俺と太宰は関わりすぎた」
実際に、云った通りであった。
Aの反応からしてもそうなのだろう。
「なぁ、此処を、彼奴に導かれて、出て行くのか?」
自分でも如何いう心算で訊いたのかわからなかった。
出て行くなとは、思わなかった、筈だ。
彼女が自由を得るためには組織からの離脱が必須なのだから。
でも、客観的に見て、先刻の言葉は行くなと云っていると捉えられるものだった。
Aの瞳が揺れる。
其の様子に、太宰の言葉を思い出した。
君に揺らぐことがあっても――
揺らいでいるのか、俺に。それとも太宰に?
「中也……もう、厭だ」
Aが目を閉じた。
「私は、もう、此の異能で人を殺すのも、傷つけるのも、脅かすのも、厭なのよ」
つまりは中原の問いに遠まわしに答えたのだ。
――君の方に倒れることはない――
瞬間、何かが崩れた音がした。
中原自身も崩れ落ちて、シーツに顔を埋めた。
「なぁ。俺じゃ駄目なのか?」
自分でも驚く位にか細い声だった。
「俺に彼奴の代わりは務まらねえか?」
恐る恐る。
上体を起こしてAを見ると、彼女は苦しそうな顔をしていた。
「中也も、太宰も。同じ事を云ってくれたわ」
視線を中原から逸らしていた。
「でも、中也は組織を抜けられない。絶対に」
――絶対に。
太宰とAの声がだぶって聞こえた。
Aの目に一点の曇りもなかった。ただ哀しそうであった。
Aの瞳に映った自分も同じ眼をしていた。
ああ、俺は云いたいことやりたい事全部できたんだな。
Aのお蔭で。
そう納得した自分がいた。
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作者名:京beスウィーツ | 作成日時:2017年9月24日 9時