三灯 愛妻家 ページ3
消すべき街灯がまだ残っていたため、あまり長くは聞けなかった。
けれど俺は、なんだかとても満たされた気分だった。
「おや、ホルシアートさん。おはようございます」
家の近くのゴミ捨て場でばったり出会ったのは、近所に住む子爵どののスティーブンさん。美しい碧眼を細めて、優しく挨拶してくれる。
「おはようございます、スティーブンさん」
「お仕事お疲れ様です。いつも朝早くから……本当にありがとうございます」
「いいえ、スティーブンさんこそゴミ捨てご苦労様です。分別手伝いましょうか?」
「お気遣いありがたい。でも後これだけなのでさっと終わらせますね」
パチリと片目を閉じた彼。
ウインクのよく似合う人だなぁとしみじみする。手にゴミ袋を持っていたとしても様になっている……。美形だ。そして気遣いも出来る。完璧だ。
「ああ!生ゴミ用の袋を忘れた!」
……たまに抜けている。けれどそれがまたチャーミングで魅力的だ。
陽もだいぶ見え始めたジャルドーレの316番地、コツコツと二人分の足音が響く。
「いやぁ私としたことが……お恥ずかしい」
「いえいえ、誰にでもあることですから。私もこの間、ビンの場所を間違えそうになりまして」
「あはは、俺もよくなります」
「ゴミ捨てって面倒ですよね」
「んー……でも俺は、案外嫌いじゃないんですよ」
そう言った彼は、優しく目元を和らげた。
ああ、この顔はーーーー
「朝食は何だろうって考える時間とか、ゴミ捨てありがとうって言われることとか、そういうのが俺は…幸せなんです」
家族を愛しいと思う顔。
俺は彼らが引っ越してきた頃から彼らを見てきたが、新婚の頃からの愛情が全く変化したりなどしない。スティーブンさんはずっと、妻子を大切にしている。
とても、素敵な家族だ。
今顔に全てが表れていることを、彼は知っているのだろうか。いや……きっと無意識だ。無意識に溢れだしているのだろう。
俺はよく、その顔を見る。
すでに彼より4つも歳を経ている俺。彼らのことを羨ましく思うことは……ない。思ってはいけない。家族など俺に作れるはずもないのだから。
彼の家の門で待ち受けていた少女が、こちらに気付いて屈託なく笑う。その目元が彼にそっくりだ。
「父さま!おかえりなさい!」
彼の顔がまた優しく笑んだのを、俺はぼんやり眺めていた。
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作者名:かんだちめ | 作成日時:2018年1月7日 17時