帰宅 ページ7
｢絶ｯｯｯ対嫌っすね｣
小さい“つ”を幾つも挟んでふわっちが真顔で言い切る。某海賊王漫画であれば｢ドン！｣と効果音が付いていると思う。この腕組みは変える気が無い意思の顕れだろう。
｢そこを何とか…お願いします｣
｢マジで元彼だったらどうするんすか？
てか普通に病むけど｣
Aさんが出て行ってしまった後、僕らは生贄を決めていた。ただでさえ感情に波があるAさんのご機嫌を自ら損ないにいくなんて皆嫌だ。
煮え切らないそれに男は黙ってジャンケンだ！と
勇み決定した生贄は頑として首を縦に振らない。
｢どっちみち殺すなら聞かなくても良くね？｣
｢じゃあふわっち気になんないんだ。
Aさんの恋愛事情｣
｢気になる｣
｢即答じゃん｣
キリリと凛々しい顔のふわっちに苦笑する夢追さん。一歩退いてるみたいな顔してるけど、思っている事は皆もふわっちと同じはずだ。僕だって例外じゃない。
嫌がるふわっちにどうしようかと悩んでいると、ガッくんが顔を上げた。
｢誰か来た｣
彼の言葉で皆が一斉に構える。野生の勘を研ぎ澄ませる彼に一切の注目が集まった。きゅうっと大きくなる瞳孔は正しく獣のそれだ。
｢Aさんの足音、と──…
……大柄な奴の足音がする。多分、男だ｣
咄嗟に葛葉が言う“男”は背が高かったらしい事を思い出す。言うが早いか、玄関のチャイムが鳴った。ギラつく皆を手で制して刀を抜く。足音を殺して近づき鍵穴から覗き見た。
｢バンパイアだけどー。誰か居ないの？｣
狭い円の中いっぱいに写る間抜け面。素っ頓狂な声に苛立って思わず扉を蹴り開けた。
｢あ、何だ居るじゃん｣
｢テメェ何しに来た｣
｢Aクン送りに来たの。
報酬は後払いでいいからね｣
掴みかかる僕の手をヒョイと避けるギルザレンは、それだけ言い残すと夜の闇に消えてしまった。相変わらず逃げ足の速いジジイだ。
『…ただいま』
｢お帰りなさい。
晩御飯今からですけど、食べます？｣
『食べる』
気まずそうなAさん。僕の質問に答えてくれた事に一先ず胸を撫で下ろした。
良かった。出る前より機嫌は直ったみたいだ。
『おじいちゃんのとこ行ってきたんだ』
｢飽きないな…なんで毎回アイツ？｣
努めていつも通り返事をしたのが功を奏したようだ。Aさんの表情は明るくなり、靴を脱いでさっさとリビングへ入ってしまう。
サムズアップしている皆を睨みながら散らせて、
僕も後に続いた。
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作者名：かんか | 作成日時：2023年12月11日 16時
