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不意に泣きそうになったが、すぐに服の袖でぐしぐしと目を拭いた。大丈夫、涙は出てない。
沖矢さんはそんな私を優しく見つめてからまた歩き始める。私もその背中を追って後ろに並んだ。
公園から暫く歩いていると歩道に出ているポアロの看板を見つける。行きと帰りでまぁまぁな距離を歩いてきたが、帰りは沖矢さんのお陰でかなり楽をさせてもらった。
私はポアロの前に着くと『ここです』と沖矢さんに声をかける。
沖矢さんは立ち止まって建物を見上げた。
「……なるほど。誰かの手伝いでもしてるんですね。女性の店員さんの親戚ですか？」
『いえ、私は男性の店員さんの方です』
「あぁ。やはり安室さんの」
『……ご存知なんですか？』
まさか知っているとは思わなくて、恐る恐る尋ねると「一度だけ家に来まして」と笑顔を浮かべる。
安室さんが家に行ったって事は、二人は仲が良いんだな。イケメン同士絵になるよ。
なんて事を考えた後、沖矢さんが今まで持ってくれていた荷物を受け取る。「重いですよ」と一言言ってくれるあたり、彼は本当にいい人だ。
私は両手いっぱいの荷物を抱えてなんとかドアを開ける。最後に沖矢さんを伺えば、まだこちらを見ていた。
あ、お礼言ってないや。
思い出したと同時に扉が閉まって、梓さんの「おかりえ！荷物重かったでしょ？」なんて労いの声が聞こえる。
私はそれに返事をしないで再び扉を開けた。
『沖矢さん……！』
既に歩い始めていた彼は立ち止まって、こちらを振り向く。
『荷物と、話を聞いてくれて、ありがとうございました！』
沖矢さんの糸目が、弧を描いた。
「こちらこそ。
君の力になれて良かった」
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作者名：-naki-
| 作成日時：2018年5月10日 15時
