事件なんて起こらなかった. end. ページ6
彼らは。私の話を聞いて、私を信じてくれている。
こくり、とひとらんさんが頷いて私の肩に手を置いた。
目を瞑ってコネさんが静かに聞いていた。
ロボロがそっと応急措置を済ませて離れた。
ゾムさんがそっと殺意をその手に握らせた。
シャオさんが真剣な面持ちでトンさんと視線を交差させた。
ひとらんさんが刀の柄を握りしめた。
大先生とグルさんは、その視線を彼女に向けた。
「なんで、なんでしんじて」
「理由は簡単だ。彼女は信頼に足りる人物という事だ。」
「昨日今日入ってきた君には分からないだろうけど、俺らは彼女との会話で、彼女との治療で信頼を置いてる。それを簡単に踏みにじれると思ったら大間違いだよ。」
「でも、どうしますグル氏、この人ずっと置いとくのは危険すぎやしませんかねぇ。」
「本部に罪状と共に送り付けたら済む話だ、あー、シャオロン。紙とペン持ってこい、コネシマは縄な。」
彼の支持を受けてさっと散る彼らは、私と目を合わせるとにっこり笑って走っていく。
ああ、なんだ。事実は小説より奇なり、じゃないか。無駄な心配だった。裏切り者とされるのではないか、と。それは彼等にはいらぬ心配だった。
私が彼等を信用するのと同等に、また彼等も私を信用してくれていたのだから。
一日二日で信用は勝ち取れない。ああ、もう。とめどなく溢れる涙を服の袖でごしごしと拭うとひとらんさんが心配そうにハンカチを差し出してくれた。もっと涙が溢れた。
それから一日経って、文字通りお縄状態の彼女は本部に送り返されていった。本部の人はぺこりと頭を下げると、これからはこちらに医療の人間を送らない旨を伝えてきた。
医療班は残念ながら一人で充分、だ。
そして私は声高らかに言う。
「私が医療班だから、怪我したらわ た しに言うように！」
「Aせんせー、昨日何があったんですかー！」
とふざけて大先生が言うものだから、私は最大の笑顔で答えてやった。
「何も起きませんでした！平和な一日万歳！この平和を」
「この平和を守る為に諸君、立ち上がれぇ！」
私に被せるように、グルさんがそう言う。仕方ないな、と溜息を付いて、さあ。
「ハイル グルッペン！」
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作者名：カナン | 作成日時：2017年9月20日 0時
