素敵な夢と一夜のお話【wrw/rd!】 (ページ11)

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人間と怪物は相容れぬ〈zm〉ページ11

※ 一部グロテスクな描写が含まれます

とある有名な思考実験の一つに、こんなお話がある。
貴方は習慣になっていることがある。例えばたまたまそれが朝早くのランニングだったとしよう。貴方はいつも通り、沼のある公園を一週するルートを取った。そしてたまたま天気が悪く、まあ。貴方は雷に打たれて死んでしまうのだ。面白いのはここからで、貴方が塵と化したそのタイミング、同じように沼にも雷が落ちる。そして何らかの超常的、あるいは化学反応が起こって。貴方の死ぬ前の記憶を有した、貴方の姿をした、貴方そっくりの…まあ、コピーが出来上がるのだ。
コピーは貴方の残した洗い物を洗い、貴方の仕事をやりとげ、貴方の物を貴方として使っていく。周りは彼女、または彼が変わったことに気付かないしまたそのコピー自身も自分がコピーであると気付いていない。
それを許容するのか、というお話だ。

私ならどうだろう。
彼ならどうだろう。
私は、死人に口無し何ていう言葉を信用してしまう。誰も変わらない、正確にはコピーがコピーと気付かないのなら、死んだ人間以外何も気付かないならそれでいいんじゃないか、と。

しかし、いざそんな問題と相対してみればそんな意見二転三転するもんで。
このスワンプマンは人間と二人きりになった場合に人を喰らい、またその人間のコピーを作る。スワンプマン本人に自覚は無く、また作られた方のスワンプマンだって自分がコピーである事を認知出来ない。

つまり、このままだと人は滅ぶのだ。私はそんな神話的現象に巻き込まれてしまったわけだ。
隣で肉塊を踏みながら階段を慎重に降りる彼の靴が段々と赤黒く染まって吐き気がする。怖い、早く逃げてしまいたい。
この先にいる母体を殺せばスワンプマンの増殖は終わる。怪物の母を殺せばこの世界は正常に戻るのだ。
日常に潜む悪を倒して、私達はただ日常に帰る。

嫌な音をたてて一歩を進める。

次第に見えてきたのは、その場の雰囲気とはまた不釣り合いな人の見た目をしたものだった。
青く透き通る目に、水色みがかった髪、白いワンピースしか着ていない彼女の足元にはまた大量の肉塊、もといスワンプマンが転がっている。
それだけでその場の雰囲気が重いものになる。
息を飲んで彼と並んで、彼女に近付く。

こいつが、母体だ。
ならば… 殺さなくては。

我ら人の平穏を。