離れないよ、蛸だから【吉田ヒロフミ】 (ページ18)

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「あけましておめでとう。Aさん」

『あけましておめでとう。ヒロくん』

真っ白な息が空に昇って消えていく

長蛇の列は前に進んでお賽銭箱の前に立つとお互いにお金を入れて鈴を鳴らす

２回拍手してお願い事を、と言っても毎年お願いするのは同じこと

＿ヒロくんが今年も生きられますように＿

悪魔と契約する私たちが神様にお願いしたところで聞いてくれるとは思えないけれど

それでも人助けを生業としているのだからこうやってお願いすることくらいは許されてもいいだろう

目を開けて横を見ると先にお願いし終わったヒロくんと目が合う

『行こうか』

「うん」

離れた手がまた繋がれて人の群れをかき分けながら神社を後にする

ある日を境に毎年元旦に初詣に来る私たちは後何回こうして一緒に来れるだろうか

『ヒロくん』

「何？Aさん」

『ヒロくんは何をお願いした？』

「Aさんと結ばれますようにって。毎年同じ」

そしてまた私は笑う

『聞いておいてなんだけど、お願い事って人に言ったら叶わないんだってよ』

「別に神様にお願い叶えてもらおうだなんて思ってない。Aさんに叶えてもらうからさ」

『ふふ、何年かかるかな』

「何年でも。俺はお願いするよ」

あなたは本当、誰かに似てる。

その言葉を飲み込んで寒いからと身を寄せる