ヒロインなんて、なりたくない。６

131話 ページ6

「ずっとずっと、普通が良かった……っ」




　頬を伝う涙は生暖かく、少しだけ心地悪い。けれど、その涙を拭うことはせずにそのまま流していた。

　私の泣く声が、ひとりきりの静かな部屋に響く。



　
　大嫌いな母親と共に暮らす苦しい毎日が、大切な人の存在のおかげで耐えられるなんて、そんな少女漫画さまさまな設定はいらなかった。

　クラスでは地味子さんでも、それで良かった。


　誰にも迷惑をかけずかけられず、ただただ平凡でそれが幸せと感じられるような普通の毎日で良かったのに。




「刺激なんていらない。」




　ずっと、同じでいい。

　代わりばえのない毎日に嫌気が差すようなことも感じないから、だから普通で良かった。



　私は耐えられず、全てを失ったのだから。

　今は幸せでも、過去は変えられない。


　どうすればいいか、分からない。




「そろそろ、逃げるのはやめよう。」




　私には皆がいて幸せな今があって、それがあるからきっと、そう思えたんだと思う。

　だから…




「向き合おう、かな。」




　そっと、両親から貰った浴衣を指で撫でた。

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