あの日の私は、雨模様。

11，君の求めるもの ページ12

「はい、ここでい？」

「あ、ありがとう…助かった。」

「いーえ、あのさ…」


「先輩！」



　宮田くん…？

　慌てて近寄ってくる宮田くんは、焦っているようだった。しかめっ面をして言った。




「運べないなら行ってくださいよ！
遅かったので焦りましたよ、まったく！！」

「ご、ごめんって…」




　プンプン怒っている宮田くんはお父さんみたいだ。

　笑いが込み上げてくる。




「笑ってないで、仕事です！」

「はいはい、すみませんでした〜。」

「全く…。じゃあ行きますよ。
お客様も、ありがとうございました。」




　私ももう一度お礼を言おうとしたけど、宮田くんに思いっきり手を引かれていい損ねてしまった。

　もう、これっきりでいい。何も起きないままでいい。私の初恋は、ずっとずっと止まってればいいの。

　……なのに。




「アーヤ。」

「……っ」




　君は私の名前を呼んで、引き留めて、何を期待しているの？

　アーヤって、優しくてあの頃のように私だけに向ける声で呼んで、また私の気持ちを揺さぶろうとするの？




「なぁに、翼。」




　宮田くんは大きく目を見開いた。

　"アーヤ"と"翼"という、それぞれの愛称で呼び合う私達を見れば誰だって驚くだろうね。

　だって私達は立場上、"スタッフ"と"お客様"なんだから。

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