戸惑う質問 ページ9
気まずい。会話がない。
早くと急かされ、ちょうど来たエレベーターに乗り込んだは良いものの。
先ほどから全く会話がない。
私から話しかけるなんて出来やしないし、話題がない。
私達ほどの立場の人間には言えないような事もあるだろうから、仕事関係の話は迂闊に振ることができない。
プライベートなんて何を聞いたらいいのかすら分からない。
無花果様も、こんな仲良くもない小娘にプライベートなんて聞かれたくもないだろうし。
正直な話、私もさほど興味はない。
何十分もエレベーターの中というわけでもないし、あと数分くらい沈黙でもいいかな。
「…以前から気になっていたのだが。お前は、何故この仕事を引き受けたんだ。」
そんな私の考えを知ってか知らずか、小さな空間を無花果様の声が満たした。
「えっ……と。」
予想外の質問に戸惑う。
真っ直ぐ前を見つめたままの無花果様だけれど、纏う空気が答えを促していた。
「…私がこの仕事を引き受けたのは、罪滅ぼしのため…です。」
ほう、と小さく呟いた無花果様は私を一度ちらりと見て続きを促した。
「無花果様もご存知の通り、私は兄を巻き込んで大問題を起こしました。兄は外に出る際、私のせいではないと言ってくれました。…でも、私はずっと、私のせいだと思っていました。私が兄の平穏な生活を壊してしまった。それも、最悪の形で。」
その事がずっと心にのしかかっていた。
お兄様はそんな人ではないと知っているけれど、私を恨んでいるんじゃないかと思ってしまう。
お姉様達だって、お母様だってそう。
大切なお兄様がいなくなってしまった原因の私の事など好いているはずがない。
ずっと、ずっとそう思い込んで来た。
「…でも、違ったんです。」
そう、全くそんなことはなかった。
むしろ、私が抱え込んでいた罪の意識をどうにかしようとしてくれていた。
「私がずっと思い違いをしていたんです。母も姉も…皆、“私のせいではない”と言ってくれました。一人で抱え込まなくていいと言ってくれたんです。」
最初は罪滅ぼしだった。
でも、お母様やお姉様達に言われて気がついた。
今まで見て見ぬ振りをしてきた皆の優しさに正面から向き合うことが出来た。
「だから今は、誰かの役に立てるような、お兄様に顔向けできるような人間になるために、この仕事をしています。」
決意とともに胸の内を明かした私に、無花果様はそっと微笑んでいた。
作者より(飛ばしていただいて構いません)→←やっぱり苦手…?
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作者名:ゆかり@神無月 | 作成日時:2018年12月25日 14時