区切られた世界 (ページ6)

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美しい横顔ページ6

観音坂独歩side

「…じゃあ、私的な場面では、独歩さんとお呼びしますね。よろしければ、私のことも名前で呼んでください。名字だと長いと思うので。」

クスリと笑ってそう言った彼女を、綺麗だと思った。
三十路直前のおっさんにそう思われても気持ち悪いだけかもしれないけど、素直にそう思った。
顔が整っているのは一二三もだが、一二三とは違う綺麗さ。

艶めいた絹のような髪に、バランス良く配置されたパーツ。
白い肌は化粧っ気がなく、形の良い唇は桜色で。
華やかな雰囲気の中に、どこか消えてしまいそうな儚さを秘めている。

つい、見惚れてしまった。

一二三に何度か声をかけられて、慌てて謝罪をすれば一二三に笑われる始末。

少しはフォローしてくれ、一二三。

ホテルのエントランスでぶつかった時には笑わなかったせいもあってか、幼さの残る顔の割に少しきつい印象を受けた。
けれど、歩く彼女の後ろ姿は凛としていて、俺なんかとは大違いだった。
俺なんかよりもずっとしっかりしていて、自分の気持ちもはっきり言える。
正直言って、俺よりも大人に感じた。

だから、俺もこんな風になりたいと思った。
高校生、しかも女の子に憧れるというのがだいぶ気持ち悪い話だと言うのは分かっている。

女子高生に憧れたわけじゃない。
堂々としている姿や、自分の気持ちをはっきりと言えるところに憧れただけだから、ギリギリセーフだ。

なんて自分に言い訳して、彼女の横顔をチラリと見る。
ちょうど先生がAさんに、時間は大丈夫かと聞いているところだった。

あああ、俺の馬鹿！！
どうしてこうも気遣いが出来ないんだ！！
先生が聞いてくださるよりも先に聞いておくべきだっただろ！！
また先生のお手を煩わせてしまった…。

俺の様子に気づいたであろう一二三も申し訳なさそうに眉尻を下げた。

「こんなに暗くなってしまってすみません！俺がもっとしっかりしていれば、こんなことにならずに済んでいたのに…そうすれば、使用人の方もAさんのお迎えに来ることもなく、別の仕事が出来たかもしれないのに…こんなんだから俺は…」

途中から自己嫌悪に入った俺に、優しく声をかけてくれたAさん。
自分に言い訳をしていて、先生や時間にまで気が回らなかった気遣いのできない俺とはやはり違った。

笑いかけてくれた綺麗な笑顔にまた見惚れながら、気遣いが出来る人になろうと改めて決心した。