垣間見えた?優しさ ページ11
軽やかな音が鳴り、エレベーターの扉が開く。
無花果様に続いてエレベーターを降りると、既に彼女は待っていた。
黒いパンツスーツのスラッとした美人。
名前は
一回り歳上の彼女は、私が生まれた時から世話役として一緒に過ごしてきた。
黒髪ショートにパンツスーツ、口調も男らしく、アクセサリー類は一切無い。
その上、色気も化粧っ気もない。
けれど綺麗で、何処か格好いい彼女が私は大好きだった。
「片桐、ごめんなさい。わざわざ迎えに来てもらってしまって…。」
彼女は首を振る。
「いえ、お気になさらず。仕事のうちですし、自分も心配でしたので。」
姉のように親身になってくれる、姉ではない彼女との距離感は私にとってとても心地良い距離だった。
「…ありがとう、いつも助かっています。」
暖かい笑みを浮かべ、頷いた彼女は私の横にいた無花果様にも声を掛けた。
「挨拶が遅れ、大変申し訳ございません。勘解由小路様、ご無沙汰しております。お変わりありませんか?」
「ああ。こちらは変わりない。そちらのご当主は?」
「変わりありません。お気遣い、痛み入ります。…お嬢様。車が用意してあります。勘解由小路様も乗られますか?」
片桐の言葉に、少し痛そうな顔をした無花果様が緩く首を振る。
「…いや、遠慮しておこう。お気遣い、感謝する。」
「畏まりました。それでは失礼致します。」
ああ、と片手を上げた無花果様に、お疲れ様でしたと声を掛け、深く一礼する。
片桐に促されるまま、車に乗り込むとすぐに車は動き出した。
「…ねぇ、片桐。」
外の音はほとんど聞こえない。
静寂に包まれた車内に私の声が小さく放たれる。
「
凛とした片桐の声とは対照的に消えてしまいそうな私の声。
昔から私にとって片桐は憧れだった。
凛とした佇まいだけではない。
強い信念を持ち、説得力のある話し方で、何事も冷静にこなす。
どんな窮地にも臨機応変に対応できるその姿に、どれだけ自分もこうなりたいと思ったことか。
「…お嬢様…?」
ミラー越しに心配そうな目を向ける片桐とほんの一瞬だけ目が合う。
「…ううん、何でもないわ。」
きっと彼女は分かっている。
けれど、放っておいてくれるその優しさに甘えて、窓越しの街に目を向けた。
私は、彼女のようになれているのだろうか。
あの頃の憧れに近付けているのだろうか。
キラキラと輝く街灯りに目を細めた。
続く (更新停止中) お気に入り登録で更新通知を受け取ろう
←作者より(飛ばしていただいて構いません)
177人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ヒプノシスマイク」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ゆかり@神無月 | 作成日時:2018年12月25日 14時