花の聲

三十七 ページ36

宏太.


腕の中に、しっかり囲った光を眺めてる俺の面。
大分まずい。非常にまずい。でも止まらない。
もし変態だって言われても、堂々受け入れて見せよう。

「んぅ…」
「起きた？」
「こぉた…？」

朝から、いや朝だから！

「なに…これ」

これ、とか言わないで(泣)
夕べお前を散々…以下自主規制な。

「整理現象です…おはよう」

それでも言い訳する俺って。

「おはよう…あっ！」
「ぉわ！」
「あ、ごめん」
「いえいえ」

ある意味慣れてるから、ぶんっと上がった頭を仰け反って避けた。
モロに顎下食らって目の前を星が飛んだ…のを、数回経験すればね。

「で、どうしたの」
「お前より先に起きる筈だった！」
「へ？」
「朝の仕度とか、色々っ」

うわー。感涙に咽び泣いていい？
夫婦になったんだなぁ。

「ちょ、離せばか…っんん」
「今朝はゆっくりでいいんだよ」

新年に向け忙しなくなるけれど、そこは皆も許してくれてる。

「だから…ね」
「だめ、ぁ」

寝乱れた衿元から覗く、俺が付けた印。
障子越しの朝日の中で身を捩る光の生身が、堪らなく俺を誘う。

「ひかる、ひかる」
「こぉた…こら、っ…」

新婚なんだからこのくらい…。だめと言いながら悩ましく腰を揺らしてるなんて、気付いてないよな。

『慧さんっ』

どきぃ！

飛び込んできた声に固まった。

鮮明には聞こえないがやり取りをしたらしく、やがて気配が遠ざかる。
止める勢いで潜めていた息を吐き出して、思いきり光の上に突っ伏した。

「……起きる？」
「…………そうするか」

そりゃ気も削がれるってもんさ…まぁ焦ることはない先は長いんだ。


「よし、来年の目標決まった」
「もう？」

のそのそと起き上がりながら、寝癖の頭を掻いて。

「どっか温泉でも行こう。…二人で」

丹前を広げていた光が、きょとんと振り向いた。

「………二人で？」
「二人っきり、で」

言い切れば、ふわりと笑った光の唇が俺のそこを掠める。

「嬉しい」
「ひかるっ…」
「そのためにも頑張らなきゃ！」

すっく！と仁王立ちになった嫁を、抱き締め損ねた腕は空を切る。
心に決めたぞ俺は。

とりあえず今夜も張り切ろう。


.

三十八→←三十六

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す