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「おれとお前は…恋人同士だったんだ」
「恋人…」
「そう」
学生時代からのこと。そして事故のこと。話しながらやっぱり詰まってしまうおれの背中を、大きな手のひらがゆっくりと撫でてくる。おかしなもんだよね、当の本人に宥められて話すなんて。
「じゃあ…俺は別に変態じゃないわけか」
「そこ?」
「むしろ重要だろ」
「えー」
「俺としちゃ最優先事項なんですけど」
「はいはい」
まぁ…言わんとしてることは判るけどさ。
昔から空気を読むの上手かったし。
(あれ???)
「伊野尾」
思わず顔を上げたら、眉尻を下げて薄い唇がきゅっと上がってる。
この顔、『ごめんなさい』を言う時の顔だ…。
(ぇ、何で?)
それに言葉遣い…。どこか余所余所しい感じがなくなり、あの頃のような気軽さが戻ってるような。
「ごめんな」
「ぇ?」
「沢山泣かせた。そうだろ」
「………」
ばかやろ。
何で改めて確認するんだよ。変態疑惑の空気のままにしとけっつの。
そんなの…泣いたに決まってる。
突然居なくなったくせに。
おれになぁーんにも言わず居なくなったくせにっ。
でも。たとえおまえが居なくても、突き付けられる
…元々あの街を、進学で離れることは決まっていたけど。
10年間一度も帰れなかったのが、お前の『死』を認めていることなのも。
受け入れたくなくて無視してた。
大学や
日々を生きるのに夢中でも、お前が居ない年月の方が長くなっていっても、二人で過ごした月日を、どうしても越えられなかった…!
「…泣き虫じゃない筈なんだよね」
言った側からじわりと滲み出る涙。慌てて拭おうとすれば、「擦るな」と指の腹が優しく滑った。
一旦止まったのに、また溢れだす。後から後から腹の辺りから湧き出る何かが、涙になって止めどなく溢れ、やぶの手を濡らしていった。
なにも言わずただ、おれを抱くやぶ。
力強い鼓動が彼に確かな生があると教えてくれる。
判っていても。
これは長い夢なのかと。
おれが都合よく見ている夢なのかと。
怯えてしまうんだ。
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夏夢(プロフ) - 黄色いうさぎさん» 黄色いうさぎさまはじめまして☺️わぁ、何度も読んで頂いてるんですね☺️ぉ、おおぅ旗部屋リピートも(恥(/▽\)キャッ)💦こちらこそありがとうございます😆励みになります💕 (2022年9月14日 12時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
黄色いうさぎ(プロフ) - こんばんは、始めまして夏夢さん。夏夢さんの作品を定期的に読み直しています。回路…や尾行シリーズも好きです。旗部屋も😁どれも素敵なお話達、やさぐれた私の心を癒やしてもらってます。ありがとうございます (2022年9月13日 22時) (レス) id: ef1652ec47 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ちぃちゃんさん» ちぃちゃんさま、拙話を寛ぎのお供にだなんて、恐縮でございます😆ありがとうございます(照)💕子狼くん、またお目見えしました時は遊びにきてくださいねー😊💕 (2022年5月3日 16時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ちぃちゃん(プロフ) - 連休で時間がたっぷりあるのでシリーズ読み返していて、「回路…」の薮伊野にキュンときました。 薮伊野大好きですが子狼くん達のお話も大好きで読み返してはやっぱり作者さんの紡ぐお話大好きだなと改めて思いました。 (2022年5月2日 20時) (レス) id: bdaf2a3994 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ましろさん» 食べられてしまいましたねー(^-^;そうなんですよ、お話の肝なのにさくっとし過ぎてしまいまして…これは覗き見案件なんでしょーか( ̄▽ ̄;) (2021年2月19日 20時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏夢 | 作成日時:2020年3月20日 23時