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hk.
外来が一段落して、食堂に出向いたら裕翔に手を振られた。
何となく二人でまったりランチをしつつ、話題は自然いのちゃんのこと。
「それで…お二人は今どこに?」
何年振りかの休暇を取り、出掛けている先はもちろん。
「二人で薮さんの実家行ってる」
「えー!ね、ね、それってつまりご挨拶っ?」
「声デカイって。いやいや飛躍しすぎ」
勢い込む裕翔に笑って突っ込む。残念だとぼやく後輩は、次に気遣う顔になった。
「順調に記憶を取り戻してたの?」
「みたい」
最初に思い出してから、それがきっかけになったのか、その後次々と思い出していった薮さん。
『事実』があれば後は本人次第だと、大倉先生は
「そうですよねー…感情の記録はどこにも残しようがないですもんねぇ」
恋人の手作り弁当を堪能した裕翔が、納得したような腑に落ちないような溜め息を吐き出す。
「人の内側から湧き出るものだからね…まぁでも」
程よく冷めた食後のお茶を、半分くらい一気に飲んで口の中をさっぱりさせた。
「いのちゃんがすっごく幸せそうだから、いいのかなぁ…って」
「…ですね」
ほんの少しの間を、悪戯っぽく破ったのは裕翔だった。
「休み明けで女性化してたり?」
「う゛」
それは…俺も考えないではなかった。
基本弊害もないし、二人がその気ならもう大丈夫(何が)なわけで。
「どんな感じになるんだろ?美人が益々美人になるなんて楽しみしかないよ」
うーわ。デレきってるこのツラ、恋人に送りつけてやろうかな。
ちょっとブラックになりかけてると。
「あっ!そうか!」
「ちょ、ビックリすんじゃん」
疚しいこと考えてただけに。
そんな俺の思惑なんか知らない裕翔が、目をキラッキラさせてくる。
今度は何だ。
「女性になっても多分わかんないよね!いのちゃん元々美人だし!」
そこは判るだろ。
うんうんそうだよねー。と、勝手に納得してる裕翔は放っといて、残ったお茶を飲み干したら。
着けっぱのイヤモニに、タイミング良くエリィの声が響いた。
「はいどした?…すぐ行く」
「片付けとくからいいよ」
「サンキュー裕翔っ」
うーん。
いのちゃんのことだし、どっちでもいいとか言いそうだけど。
親友の行く末に、ちょっとだけ寂しさもある…のかな。
「…さ、仕事仕事っ」
いのちゃん!
幸せになって帰っておいでね!
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夏夢(プロフ) - 黄色いうさぎさん» 黄色いうさぎさまはじめまして☺️わぁ、何度も読んで頂いてるんですね☺️ぉ、おおぅ旗部屋リピートも(恥(/▽\)キャッ)💦こちらこそありがとうございます😆励みになります💕 (2022年9月14日 12時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
黄色いうさぎ(プロフ) - こんばんは、始めまして夏夢さん。夏夢さんの作品を定期的に読み直しています。回路…や尾行シリーズも好きです。旗部屋も😁どれも素敵なお話達、やさぐれた私の心を癒やしてもらってます。ありがとうございます (2022年9月13日 22時) (レス) id: ef1652ec47 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ちぃちゃんさん» ちぃちゃんさま、拙話を寛ぎのお供にだなんて、恐縮でございます😆ありがとうございます(照)💕子狼くん、またお目見えしました時は遊びにきてくださいねー😊💕 (2022年5月3日 16時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
ちぃちゃん(プロフ) - 連休で時間がたっぷりあるのでシリーズ読み返していて、「回路…」の薮伊野にキュンときました。 薮伊野大好きですが子狼くん達のお話も大好きで読み返してはやっぱり作者さんの紡ぐお話大好きだなと改めて思いました。 (2022年5月2日 20時) (レス) id: bdaf2a3994 (このIDを非表示/違反報告)
夏夢(プロフ) - ましろさん» 食べられてしまいましたねー(^-^;そうなんですよ、お話の肝なのにさくっとし過ぎてしまいまして…これは覗き見案件なんでしょーか( ̄▽ ̄;) (2021年2月19日 20時) (レス) id: 5f3d433f1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏夢 | 作成日時:2020年3月20日 23時