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祖父の書斎の前まで来て、ノックをする。どうぞ、と祖父の声がして中に入る。


「こねか。どうしたんや」


祖父は眼鏡をかけて部屋の奥にある執務机についていた。手元には書きかけの原稿用紙があって、手には万年筆を握っている。仕事中だった。
話がある。そう伝えると、いつもと違う俺の雰囲気を察したのか、祖父は万年筆を置いてこちらを見た。


「俺、一人暮らししたいねん。高校入ったらサッカー辞めて、バイトして、一人で生きていく。でもそれだけだと金が足りない、せやから、少しだけ、手伝ってくれへんか」


お願いします。俺は深く頭を下げた。

しばらく、でもないのかも知れないが、俺にとって長い沈黙が流れた。祖父から何と言われるか怖くて、返事を聞くまで俺は顔をあげられなかった。カチカチと、古い置時計の秒針の音に、俺の心臓の音が紛れてはち切れそうだった。

そして祖父は置いてあったお茶を一口飲んでから、こちらに来なさい、と訛りを抑えた口調で俺を呼んだ。俺は顔を上げて、机のすぐの近くに寄る。

するとガタリと椅子を引いて祖父は立ち上がると、両腕で俺の肩を強く掴んで言った。


「よう言うたこね。お前なりに考えて言いに来たんやろ?心配せんくても俺がどうとでもしてやる。サッカーは続けろ。お前は才能があるんやから、こんな若いうちに捨てるもんじゃない。ええな?」


俺は目を見開きながら頷く。成長したな。祖父はそう言うと俺の頭をくしゃくしゃと荒く撫でて、にっと歯を見せて笑った。


「でもな、お前ならよう分かっとるかもしれんが、お前の歳じゃ一人で暮らすには親の許可が必要や。あのドラ息子か、母親の許可なしじゃ俺が許しても世間は許してくれない。その説得は、お前がするんやぞ」

「分かってる。じいちゃん、ほんま…ありがとう」


そして無事に高校受験に合格したその日、桜丘高校の合格発表に行く直前に、俺は朝早く自宅のリビングの机に置き手紙と賃貸契約の書類を置いて家を出た。
一人暮らしする、許可をくれ。それだけ言い残して、高校に行き、合格を確認して帰宅すると、家には誰もおらず、机には朝と同じように紙が置いてあった。

だが、その紙を見ると全ての記入欄が埋まっていて、高校入学とほぼ同時に、俺の一人暮らしが始まった。



その時は、俺は一人で生きていけると、そう思い込んでいた。



でも、今はもう、違う。

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なーや(プロフ) - こちらでもコメントありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです(泣)まだ夏の話ですけど終わりまで見て下さい笑m(_ _)m (2021年4月10日 22時) (レス) id: 8296248943 (このIDを非表示/違反報告)
相馬(プロフ) - 更新されると、まだ終わらないっておっしゃってましたけど、あ…また日付が進んでいく…と思ってしんどくなります笑毎日更新されるのが楽しみです!! (2021年4月10日 20時) (レス) id: 7501b9a05e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:なーや | 作者ホームページ:http  
作成日時:2021年2月13日 12時

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