花見の彼は ページ17
【花見】
公園の西側までやって来ると、例のソメイヨシノが見えてきた。その桜は土が盛り上がった山上にあり、俺たちはそこに続く二十段程の階段を登っていく。
「わぁ……！すごい…！」
「デカいな！これは確かにすごいわ」
彼女とこうして話すことがなければ、俺は一生この桜を間近に見ることはなかっただろう。花は好きでも嫌いでもないが、どちらかと言えば、世間がどうして植物ごときにこうも沸き立つのか理解し難く思う方だった。この時期は特に、桜が咲いた咲かないというだけで連日ニュースで放送するなんておかしな話だ。
花は散るから美しいのだ、なんて言う詩的なセリフだって何一つも共感はできない。愛でていた花が散る様を見て、それを賛美するなんて感覚は、俺には到底生まれない。
「A、どしたん？」
ふと、俯いて佇む彼女に声をかける。斜め後ろから見えた彼女の瞳が木陰と共に揺れていた。
今みたいな彼女を見ると、初期の彼女に対する遠い存在という認識が蘇る。
「…ううん、なんでもないよ」
彼女はそう首を振った。
それ以上、俺も何も聞かなかった。
10分か、15分か、もしかしたらそれ以上桜を見ていたのかも知らない。そろそろ行こうかと階段を降りていく。
その時。
急に強い風が吹いて目を瞑った矢先、前を往く彼女が階段を踏み外して、ずるりと体制を崩した。
「っA！！！」
考えるより先に、彼女に伸ばした右手が、Aの腕を掴んで引き寄せる。左手は、引き寄せた彼女を抱くように動く。
「は…………っぶな」
息が切れて、声が震えた。
何とか彼女を引き止めたことに安堵して、バクバクとうるさい心臓を落ち着かせるために、ぎゅっと腕に力を込めて大きく息を吐いた。
吐いて、吸って。
息を吸い込んだ時に鼻に香る慣れない匂いに、俺の思考がほんの一瞬だけフリーズした。
あれ、おれ、いま…
「し、しま、、シッマ、もう、大丈夫だから…」
そこでやっと思考がフル回転して、今の状況をはっきりと理解する。ああそうや今俺、Aを抱きしめてることに…
「ごっ、ごめ…！！俺、咄嗟の出来事で…」
「ぃいや、私こそ、！よそ見してたみたいでほんとにごめんね！ありがとう」
それからすぐ解放した彼女は耳まで赤くて、困りきった表情をしていた。
多分、いや絶対、彼女の今の表情と、そしてあの柔らかい花のような匂いは、忘れられなそうだと悟った。
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なーや(プロフ) - こちらでもコメントありがとうございます！めちゃくちゃ嬉しいです(泣)まだ夏の話ですけど終わりまで見て下さい笑m(_ _)m (2021年4月10日 22時) (
レス) id: 8296248943 (このIDを非表示/違反報告)
相馬(プロフ) - 更新されると､まだ終わらないっておっしゃってましたけど、あ…また日付が進んでいく…と思ってしんどくなります笑毎日更新されるのが楽しみです！！ (2021年4月10日 20時) (レス) id: 7501b9a05e (このIDを非表示/違反報告)
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