小さな神威くんの飼育係

第81話 『白紙』 ページ49

「阿伏兎、そのうるさいのを追い出してきて
耳障りだ」




と冷めたように答えた神威は塀から飛び降り
姿を消した。一切あたしに目を向けず。





「...許してやってくれA。
団長はさっきお前が身を張って飛び出した時
殺そうと思えばそれが出来た。だが、
それをしなかった。それに、吉原から追い出せ、
この命令もあんたのためを思って言ってると
思うぜ」




と静かに呟かれる






『あたしを思って...、？』






と阿伏兎に聞き返せばあいつは静かに頷き
再び口を開いた






「あんな状況だったとはいえ、お前さんは
旦那に狙われてるのは間違いねェからな
そうならない為にも吉原から追い出せと
言ってるんだと思うぞ」





と言われ神威の気持ちがよく分からなくなる






あたしを憎んでる
だけど、あたしの身を誰よりも心配してる






『...っ...、あたし何してるんだろう...』






とぽたぽた流れてくる涙






あいつは春雨できっとあたしの帰りを信じて
待っててくれていた





なのに、あたしはどんな形であれ
約束を破った。あいつの気持ちを踏みにじったんだ






『っ、阿伏兎あたしどうすればいいの
もう、前みたいに戻れないの？
ただ、帰りたいよ、春雨に。
もう一度、あいつと馬鹿してたいよ』





と言えば阿伏兎は静かにあたしの頭を撫でてくれた






「あの時、Aは真選組の事を助けに
入ったんだってな。お前さんの性分だ、
助けに入って身バレしちまったのは納得できる
だがそれを団長に言っても聞く耳もたねェ
ああなったら奴さんはきかねぇからな
お前が帰ってきてェのなら、追いかけろ
できる限りの事は俺が手助けしてやるからよ
団長も素直じゃねェ、お前さんはいつも通り
でいい、ありのままで団長を追いかけてみな 」





と言われ、静かに分かったと頷いた






「さーて、俺は何も見てねェ
腕も取れちまったし、じゃじゃ馬を
腕1本じゃ捕まえることも出来ねェなこれじゃあ」





と言われ阿伏兎はあたしに背を向け喋る、
さっさと行けと言わんばかりに。






『阿伏兎.....本当にありがとう』







とお礼をしてあたしは神威が去った時と同じように塀から飛び降り下の階に移りアイツを追った







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